「自走し課題を解決していこうという人をどれだけ生み出せるか」 ボーダレス・ジャパン:Social Good Company #21
※この記事の情報は2018年09月22日メンバーズコラム掲載当時のものです
「ソーシャルビジネスで世界を変える」をキャッチフレーズに、様々な社会課題解決型のビジネスを立ち上げ急成長を遂げるボーダレス・ジャパン。創業以来、順調に事業規模の拡大を続け、現在では9カ国で20事業を展開し社会にインパクトを生み出しています。
今回は、ボーダレス・ジャパン 創業者であり、代表取締役副社長を務める鈴木 雅剛さまにお話をうかがいました。
2007年創業、現在は9カ国で20事業を展開。売上は43億円(2017年度)を超える。
事業の目的は、ソーシャルインパクトを創出しているか。売上や利益は、その手段。
課題の本質をとらえ、これまでの常識にとらわれない新たな方法を備えたビジネスモデルを構築する。
● まずはじめに、簡単にボーダレス・ジャパンの紹介をしていただけますか?
一言で言うと、ボーダレス・ジャパンは、ソーシャルビジネスしかやらない会社です。
● ボーダレス・ジャパンが考えるソーシャルビジネスの定義を教えてください。
一般的なビジネスは、社会の不満・不便・不快とった、「不」を解消することがメインとなりますが、私たちのビジネスは違います。私たちが推し進めるのは「社会の問題」を解決するビジネスです。
では、社会の問題とはなにか?それは、社会の欠陥や不合理から生まれる、社会生活に支障をきたす大きな問題です。たとえば、貧困問題や環境破壊、差別偏見、限界集落や独居老人の問題などが挙げられます。
不満・不便・不快はマーケットのニーズです。事業性があり儲かるので、誰かがやります。一方で、社会問題、たとえば障がいで差別偏見を受けている人は、従来の社会や経済のルールでは仲間外れにされています。ビジネスをやっている人たちからすると非効率だと見なされ、儲からない人たちだと放置されているのです。
車椅子の障がい者を雇用するためにスロープを作ることは、コストとなり非効率なわけです。だから、誰も進んではやりたがりません。
もちろん社会には、素晴らしい会社がたくさんあって様々なビジネスを進めていますが、それはあくまで、不満・不便・不快の領域であって、社会問題の解決と繋がっているとは言えません。
● そういった意味で、従来、社会問題を解決していたのは、NGOやNPOです。
そうですね、ほかにも、各国の政府や行政機関だったり、国際機関の仕事だったりしますが、世の中の課題が減っているかと言えば、そんなことはありません。
さらに、みなさん資金に困っていたり、「与える」という一方的なアプローチだけではうまく解決できない問題がたくさんあるのです。これら社会問題を解決することこそ、優秀なビジネスパーソンがやることではないか。ボランティアではなく、経済的に自立でき、協働し助け合うビジネスを創る必要があるのだと思っています。
私たちは、社会問題を解決するビジネスパーソンのことを社会起業家と呼んでいます。社会起業家の数は、解決される社会問題の数だと考えています。だから、様々な社会問題を解決する社会起業家を増やしていくのが、いい社会をつくり出す一番の解決策になるのではないかと考えています。
ソーシャルビジネスを運営する会社はほかにもありますが、あらゆる分野の社会問題に対して、その解決を志す社会起業家を次々と生み出していく。それに特化した会社はほかにはないと思っています。
世の中に、社会起業家のための会社がひとつくらいあってもいいのではないか。社会起業家が自分の取り組みたい課題に対してチャレンジでき、なおかつ成功する、そのための会社が必要であると考えています。
社会起業家は成功しなきゃいけないのです。社会のためにチャレンジする彼らが失敗してしまうのは、社会にとって非常に大きな損失だと思います。
● それが、ボーダレス・ジャパンで掲げるプラットフォームという考え方ですね。
ソーシャルビジネスを成功させるためには、起業家の志や常識に囚われない新たなビジネスモデルに加えて、資金やノウハウ、そして仲間が必要です。
それらのリソースを互いに共有、活用しあい、いち早く事業を成功へと導くことで、社会インパクトの最大化を最速で進めるためのプラットフォームです。
● そもそもなぜ、こうしたビジネスを始めようとしたのでしょうか?
社長の田口一成は、大学2年のときに「自分がこの世に生まれたからには、なにをやって生きていくか」を考えていたそうです。
そのときに、発展途上国で栄養失調に苦しむ子どもの映像を見て、「これぞ自分が人生をかける価値がある」と決意しました。それ以降、こうした飢餓の問題を解決するにはどうしたら良いかと考え、NPOやNGOに話を聞きに行ったそうです。そこで皆さんが切実に言っていたのが「お金がない」ということ。
そして、寄付金や補助金に依存している以上、いつ無くなるかが分からない危ういものでもあると。インパクトを継続、拡大していくためには、自らがお金を生み出せる人にならないといけない、と言われました。そうしたアドバイスがあり、ビジネスというツールを使って貧困問題を解決しようと決め、起業へと繋がります。
● 鈴木さんもそうしたエピソードがあれば教えて下さい。
私は学生時代の塾講師のアルバイトにさかのぼります。当時、一緒に働く仲間のやる気の無さに驚きました。
仕事を通して、子供たちに喜んでもらおうとしているにも関わらず、どうして皆がつまらなそうに、辛そうに仕事をしているのだろうか?と考えたのが最初のきっかけです。
一方で、外に目を向けてみても、たくさんのスーツ姿の人たちが朝から辛そうに通勤電車に乗っている。人生は、働く時間にその多くを費やします。その時間を苦しさのなかで続けるのは残念でならないと思いました。一方で、シングルマザーや障がいのある人たちなど、働きたくても働けない人がたくさんいることも目の当たりにしました。
そんな経験から、意義のある仕事を通じ、自分の良さや強みを発揮し、社会の人々に喜んでもらえる。働くことが、生活のためだけでなく、人生の目的となる夢や志を実現する手段になる。そんな仕事や経営手法をつくり出したいと思いました。
また、そうした仕組みやメソッドを世界に広めることができれば、より多くの人々が幸せになれるのではないか、とも考えました。そのために、実践する場が必要だということで、起業しようと考えたのが大学4年のときです。
● 夢や志を持って働くこと、それは、ボーダレス・ジャパンを通して、実現しているということですね。
少しずつですが、実現できていると思います。
● ボーダレス・ジャパンのプラットフォームを通して、具体的にどのような事業が生まれているか教えていただけますか?
始まったばかりの事業をいくつかご紹介しましょう。
現在、全国でこども食堂という取り組みが広がっています。そのほとんどがボランティアによって成り立っています。開催されるのは月に1回か2回ほど。こども食堂の本来の目的は、子どもたちの居場所を地域で作ることだと思います。であれば、毎日その食堂がオープンしている必要がありますが、ボランティアでは非常に難しい。
毎日オープンしていて、子どもたちが気軽に寄れる。こども食堂では収益が出せずとも、それ以外でしっかりと収益を確保して自走できる。そんなこども食堂モデルをつくろうと始まりました。
● 既にある食堂と連携するのではなく、自社で食堂運営をするのですか?
すべて自前で進めています。
現在、横浜で運営していますが、昼間は通常の地域の食堂として収益性を担保し、夜は子どもたちが来て、宿題をしたり、遊んだり。そして、子どもたちは300円で夕飯を食べられる場を提供しています。
スタートしてから地域の新たな課題が浮き彫りになってきました。それは、地域の高齢者も居場所がないということ。現在、子どもたちにとっても、高齢者の方々にとっても居場所となる新たな地域コミュニティのモデルに変化させるために、リモデルを進めているところです。
● すべて自分たちで、昼間の食堂の運営をされているところがユニークですね。
こども食堂を含め、ボーダレスの事業は、すべてを自前でつくりあげていきます。
ビジネスプロセス全体で互いの「顔」が見える状態をつくり上げないと、1人ひとりの状況が見えなくなり、社会問題の解決という事業目的を実現できません。技術的なものは専門家にアドバイスを求めることもありますが、素人が徹底的に勉強し考え抜いて事業モデルをつくり上げていきます。
● なぜその分野の素人が、こうした様々な分野の事業を立ち上げられているのですか?
素人だからです。その業界の常識や既成概念を持ち合わせていないから、事業目的の実現を純粋に追求します。
結果、ひねり出した発想は、既存の業界の常識やルールを逸脱した新しいものになります。経験や知識は必要ですが、一方で、それらに囚われてしまうと、新たなものの見方ができなくなってしまいますね。
冒頭にもお伝えしたように、既存の経済や社会のルールが生み出す社会問題によって、仲間外れの人々や状況が生じます。既存のルールが問題なのです。社会問題を解決するためには、そのルールを変える新たなモデルを投入することが必須条件です。なので、知らないことが強みになるのです。
● だからこそ、若い社長が生まれ、皆さんが活躍されているわけですね。
そうですね。
ちなみに、起業家ってどんな人だと思いますか?様々な経験を積んだ老練な経営者のイメージではないですよね。起業するチカラと事業を運営するチカラは、まったく違います。
既存事業の機能分化された組織で仕事をしても、ビジネスプランを書けるようにはなりません。仕事の経験をしてから、というのはある意味で既成概念であり、経験や知識が邪魔をすることにも繋がります。もし志があるのならば、早くスタートした方が良いと思います。
● 養護施設出身者の就労支援に関しても教えて頂けますか?
養護施設に入らざるをえなかった子どもたち、または、養護施設に入れなかった子どもたちがたくさんいます。彼らの多くは、両親の離婚による困窮や親の障がい、家庭内暴力等によって、不遇な幼少期を過ごしています。
彼らは、そうした経験や環境により、人を信じられなかったり、自己肯定が低い傾向があります。そうした子どもたちも高校や専門学校を卒業し就職していきますが、コミュニケーションがうまくとれない、家庭のトラブルなどの理由で、転職を繰り返し相対貧困のスパイラルに陥ってしまう可能性が高いのです。
ボーダレスキャリアでは、彼らに寄り添い、自己肯定感や人を信頼するチカラを養いながら、精神的にも経済的にも自立していけるようにサポートします。就職の支援だけでなく、就職後も人間としての成長や自立を見守り、伴走していきます。
ステップ就職
● 就職後の支援もするわけですね。どのようなビジネスモデルですか?
若者の自立に真剣に向き合う企業さんに対して、各社の組織風土や人材に対する考え方と本人のキャラクターを繋ぎ合わせる人材紹介モデルです。
数を追い求め紹介して終わり、というモデルが多いなか、企業さんとたくさんコミュニケーションをとりながら、若者に対する育成方法などをともにつくり出していきます。
● そういった企業や経営者はどのように見極めていますか?もともとこうしたネットワークはお持ちだったのですか?
そのようなネットワークは持ち合わせていませんでした。自分たちが個別にアプローチして拡げています。また、そうした会社をご紹介いただいたり、Webを通じて問い合わせをいただいています。
必ず、人事部門のトップや経営者に直接お会いしています。どれだけ人を大事にしているのか、また、人を中心に考えて経営をしているかが、見極めのポイントです。そうした企業は概ね、育成やフォローアップの体制がしっかりと整っていることが多いですね。
● ボーダレス・ジャパンのWebサイトを拝見すると、起業家求むといたキーワードが掲載されています。
たとえば、ボーダレスキャリアの社長を務める方は、こうした課題を解決したくて、ボーダレス・ジャパンへ就職されたわけですか?
まさにそうです。こんな社会問題を解決したい、そのために事業をつくりたい、と志す仲間が集まっています。一方で、社会起業家を応援していきたいというさまざまな分野のスペシャリストもたくさんいます。
●そうした社内体制と個人の想いがあるからこそ、様々な分野の事業が次々と立ち上がっていくわけですね。
Webサイトには、既に行われている様々な事業が紹介されていますが、必ず、どのような社会課題を解決しているのかが明記され、事業によるソーシャルインパクトも最重要指標として掲げているのが印象的です。
ソーシャルビジネスの事業目的は、社会問題の解決そのものです。そして、解決できているかどうかを測る指標が、ソーシャルインパクトです。ソーシャルインパクトの計測方法や考え方は色々存在していますが、決して数字遊びになってはいけません。一番重要なのは、向き合う1人ひとりが本当に幸せになっているか、です。
計測の際は、人数と質的変化、そして継続性の3つを重視します。つまり、事業によって変化した仲間が何人増えたか、生活の質はどれほど変わったか、しっかり継続できているかです。
たとえば、バングラデシュの革製品工場には、貧困で字の読み書きができなかったり、性差別や障がいで働けなかった仲間がたくさんいます。
そんな仲間をどれほど増やせたか、適切な収入を得られているか、定着して働き続けられているか、がソーシャルインパクトです。現在では、約600名の仲間がプロフェッショナルとして働いており、近隣工場の1.2~1.5倍の収入水準となっています。
● バングラデシュを始めとして、海外での雇用者も増えていますが、採用の際に重視していることはありますか?
社会問題の解決に対し共感できるかどうか。
そして、何がなんでも自分は金持ちになるんだといった自我が強い人ではなく、親や兄弟を大切にし、みんなと幸せを分かち合いたいといった考え方を持っている人を採用しています。私たちは、思いやり、助け合いを非常に大切しているので、そうした点を重視しています。
● 海外の採用人数はバングラデシュが多いのですが、なぜ、バングラデシュなのですか?
革製品工場が成長しているからです。
当時、アジア最貧国であるバングラデシュでソーシャルビジネスを取り組みたいと考えていました。本格的にビジネスを展開する際に、あるコーディネーターの案内でバングラデシュの視察を行いました、コーディネーターとは寝食をともにして過ごしたわけですが、2日目にそのコーディネーターに、将来はどんな仕事をしたいのと聞いたんですね。
そうしたら、「この国から貧困をなくしたい。貧困を解決し、みんなが幸せな社会をつくりたい、そうしたビジネスをやっていきたい。」というのが、彼の答えでした。彼が現在ボーダレスバングラデシュの社長を務めるファルクです。
● それは、素晴らしいご縁と出会いですね。会社として、ビジネス成果の面は、どのような状況ですか?
2017年度は、9カ国11拠点で19事業を展開し、43.5億円を売り上げています。1年で11事業スタートしたなかで、営業利益は、5.5億円。営業利益率は12%を超えています。
● ボーダレス・ジャパンのビジネス拡大の源泉はなんでしょう?
ボーダレスは、たくさんの社会ソリューション、新たなビジネスモデルを世の中に送り出し、1つでも多くの社会課題を解決したいと考えています。
そして、これらの取り組みが上手くいくこと世の中に示すとともに、真似をしたいと思われなければならないと考えています。
● 真似をされても構わないということですか?
真似されるくらいでないと社会にインパクトは生み出せないし、優秀な人達が真似してくれることで、世の中はもっと良くなると考えています。だからこそ、私たちは、色々なことに最初にチャレンジしていく、ファーストペンギンでありたいと考えています。
● どのようにして、ソーシャルビジネスをたくさん生み出し、世界へと拡げていくのでしょうか?
1つ目は、起業家を採用し、グループの資金を活用して起業する。そして、スタートアップの立上げ支援、特にマーケティング支援を黒字化まで提供すること。そうすることで、起業家が一か八かのチャレンジではなく、グループの資金とノウハウ、人材を活用して、事業の成功確率を上げることができす。
2つ目は、各社は採用・投資・報酬決定は、すべて各社で決定するという、独立経営をしつつも、各社の利益を100%グループで共有し、その活用方法、たとえば新規事業投資や制度設計などを、グループ各社の全社長の合議制で決定しています。
● 様々な会社がソーシャルビジネスに取組むなか、そうした仕組みやルールがあるからこそ、スケールアップしているのですね。
それぞれの会社は独立経営をしていますが、利益は共有し活用しています。つまり、仲間が増えることは、それぞれの会社にとっていいことなのです。
事業アイデアやノウハウが他社に共有され、利益が上がれば次のチャレンジへと活用される。つまり、ほかの会社の恩恵により、成長しますから、成長すれば自然と恩送りをしていきます。恩送りをしながら、共同運営の母体を拡げていくことが重要となります。
ボーダレスグループは、社会起業家が集い、そのノウハウ・資金・関係資産をお互いに共有し、さまざまな社会ソリューションを世界中に広げていくことで、より大きな社会インパクトを共創する「社会起業家の共同体」であり、利他の精神に基づいたオープンでフラットな「相互扶助コミュニティ」なのです。
● とてもユニークな経営手法ですね。
11年間、経営をしていくなかで、1つひとつ制度化を進めてきました。
社会起業家や彼らを応援するスペシャリストは私たちにとって仲間であり、同志です。同じ土俵の上にいる仲間が、アイデアやノウハウを共有することにより、1人ではできなかったことが実現できると思うのです。
もう1つ、私たちが重視する考え方として、ソーシャルコンセプトが挙げられます。
通常、事業をつくるときにはビジネスモデルを描きますよね。でも、私たちは、そのビジネスモデルを描く前に、必ずソーシャルコンセプトを描きます。この順番が大切です。
ソーシャルコンセプトとは、社会問題に苦しむ人々や状況本質的な課題は何か?理想の未来像って何だろうか?その理想の未来像を実現する独自のソリューションって何だろう?ということをシンプルにセットするものです。
● もう少し具体的に説明して頂けますか?
ミャンマーのタバコ農家を例に説明しましょう。
彼らは、葉を燻す釜を家の中に作らざるをえず、気管支炎等の健康被害が生じていました。燻すための薪は、周辺の山から伐採しているため、その地域は保水力が落ちてほかの農作物が育たなくなってしまいます。
また農薬を使うにも、安全のための十分な装備が買えず、農薬被害が生じていました。農薬を使うことにより、土地がやせてしまうため、肥料の投入量が増えコストがかさみ、結果的に赤字経営となって、借金も膨らんでいました。
これまでのNPOやNGOの支援は、彼らに農業の技術が無いことを課題として、オーガニック栽培などの農業技術を支援してきました。しかし、技術を得たところで、生活水準が良くなるかというとそうではありません。収量が少し増えたり、生産コストが低減する程度では、十分に生活できるだけの収入は得られないのです。
本質的な課題は、市場価格の乱高下や低下による収入の不安定性でした。理想は、作ったものを家族みんなが生活できるだけの収入を確保できる適正価格で売れることであり、それによって安心して生活ができるようになることです。
市場取引や需給バランスは、既存の経済ルールでは、当たり前。大規模農家で資金もあれば、多少の需給バランスに対するリスクヘッジができるかもしれませんが、小規模農家はそうはいきません。
小規模農家は、社会、経済ルールの外側にいて、既存の常識が当てはめることができません。ですので、需給バランスに左右されず、必要な生活コストや生産コストから定めた価格で直接取引をする、コミュニティトレードを導入しました。
それは、市場価格に囚われず、どんなに高くても継続して買い取るということを意味します。
● 農家にとっては、自分たちの生活が成り立つ価格で買い取ってもらえるということですね。
彼らは、生産した作物を継続的に適正な価格で販売することができますので、安心して農業を営み、希望を持って暮らすことができます。
この場合のソーシャルインパクトは、コミュニティトレードを行う契約農家の数であり、借金がなくなった農家の数となります。コミュニティトレードが独自のソリューション。それを実現するためになにを作り、いくらで買取るかを、ビジネスモデルで定めていきます。
繰り返しになりますが、私たちはまず、課題の本質をとらえ、これまでの常識にとらわれない新しい取り組みを生み出し、ビジネスモデルを考えています。
● 既存の社会経済ルールの外側の人たちを巻き込み、成果を上げているということでは、SDGsの「誰も置き去りにしない」という基本理念と共通しています。
そうですね。しかし、会社を立ち上げて12年目になりますが、まだまだやり遂げたというには遠くおよびません。
社会は何も変わっていない。常に、世の中を変えるにはどうしたら良いか、社会にインパクトを与えるにはどうしたら良いかを追求しつづけています。
また、今後は、一企業グループという小さな枠組みを越え、社会全体で社会起業家を生み出していくエコシステムをどう作っていくか、を実現するために、社会起業家養成所「ボーダレスアカデミー」を2018年10月に開講していきます。
● ボーダレス・ジャパンが行うビジネスで、JOGGOブランドによる革製品の販売があります。
色の組み合わせやロゴ、名入れをカスタマイズできることが特徴かと思いますが、オンラインショップでは、ソーシャルビジネスの商品であることは触れられていませんが、なぜですか?
ポイントは2つあります。
1つ目は、貧困だった人が頑張って作った革の財布をぜひ買ってくださいと言っても、売れません。エシカル・マーケットは存在しますが、そうした市場はほんの一握りです。社会インパクトを生み出すためには、小さすぎる。やはり、良い商品であるからこそ買っていただける、ということが大前提です。
そして、こちらの方がより重要ですが、2つ目は、もともと貧困だった人が作ったということを伝えることは、作り手の気持ちからすれば、とても悲しいことですよね。その職人は誇りを持ちプロフェッショナルな仕事をしているにも関わらず、貧困でかわいそうだから買ってくれている、というのはすごく辛いことです。
人として、ともに歩む仲間のことを考えたときに、彼らが嫌だなと思うようなことはできません。最も大事なことは、人としての思いやりです。
私たちの商品を手に取って購入していただくきっかけは、それ自体の良さを提供できているからです。その後で、お客さまとのコミュニケーションを通じて、事業目的をお伝えすると、非常に共感してくださいます。
● 鈴木さんが描く、2030年の未来を教えて下さい。
社会問題を誰が解決するかという問いがあったとすると、その答えは私たち1人ひとりです。
そのために大切なのは、社会のなかで自分が自走し課題を解決していこうという人をどれだけ生み出せるかだと思います。
そういった人たちが様々な地域でたくさん生まれ、課題解決の取り組みをして、仲間を増やしていく。顔の見える関係性のなかで、それぞれの取り組みが連なり、互いを信頼し、助け合い、いい社会、いいコミュニティをつくっていく。1つひとつは小さくてもいい。たくさんあることが大事です。
1人でも多くの社会起業家が、日本全国そして世界中で生み出され成功する仕組みをつくっていきたいと考えています。
● 最後に、ボーダレス・ジャパンさんにとってのゴールはなんですか?
「いい社会をつくる」ことです。現在、そして未来の人たちが幸せになれる社会。そのために「いい会社」を増やしていきたいと思います。
※この記事の情報は2018年09月22日メンバーズコラム掲載当時のものです
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