「ステークホルダーやパートナー企業とともにカーボンゼロを達成する」 アサヒグループホールディングス:Social Good Company #58
※この記事の情報は2021年01月29日メンバーズコラム掲載当時のものです
長年、国内でのトップブランドに君臨するスーパードライを擁し、酒類・飲料・食品などのグループ事業会社を束ねる、アサヒグループホールディングス。サステナビリティ・フレームワークの設定やマテリアリティの刷新を進める同社に、気候変動対策を中心にサステナビリティの取り組みをおうかがいしました。
バリューチェーンを含めた2050年までのカーボンゼロ目標を掲げる
社有林の維持管理を通して、水の100%還元(ウォーターニュートラル)に取り組む
スーパードライは、グリーン電力を活用し製造された国内最大の商品
● 2050年の温室効果ガス排出量削減の目標「アサヒカーボンゼロ」を掲げています。気候変動対策に積極的に取り組む意義から教えてください。
私たちが提供する酒類、飲料、食品を中心とした商品は、水などの自然の恵みを原料としています。また、私たちはステークホルダーの皆さまからの信頼を得ることにより存在しています。そうしたなか、気候変動は、経営そのものを揺るがしかねないリスクであると捉えています。マテリアリティの1つに環境、特に気候変動に対する目標を掲げ取り組んでいます。
そして、私たちはコミュニティもマテリアリティの1つとしています。地域や様々な関係者の方々との対話やつながりを強化することにより、脱炭素社会や、楽しい生活文化の創造やグローカルな価値創造企業といった、私たちのフィロソフィーを実現できると考えています。
● 気候変動が進むことで、どのようなことがリスクとして挙げられますか?
主に2つあると考えています。1つ目は、原材料を安定して調達できなくなるということです。地球温暖化で気温が上がることにより、農作物の生産に影響を与え、私たちが必要とする原材料の調達も減ってしまうことになります。2つ目は、渇水が挙げられます。水は私たちが提供する商品にとってとても大切な資源です。オーストラリアなどでは、すでにそのリスクが顕在化しています。
こうしたことから、気候変動は、私たちの事業に大きな影響を与えると考えていますので、CO2排出削減などの目標の達成に向けて、真摯に取り組んでいきます。
● 衣類や牛肉など、様々な生産物は多くの水が必要となります。ビールの生産はいかがですか?
ビールや清涼飲料水などの飲料商品の製造には多くの水を必要とするため、工場の水使用効率を高めたり、使用する水の量を削減しています。
また、ビール工場の排水処理設備からはバイオガスが発生します。そのバイオガスを精製し、燃料電池で活用する実証実験を進めています。この独自技術は、特許を取得せず可能な限り情報を公開し、サステナブルな社会への移行に貢献したいと考えています。
さらに、私たちが自ら保有する広島県の社有林「アサヒの森」を保全し、森が水を育み蓄える能力(以下、涵養)を高めることで、水の使用量と「アサヒの森」の水の涵養量を、2025年には同じ量にするという目標も掲げています。水源地となる森の保全活動は以前から全国で積極的に取り組んでいます。
● 気候変動対策を進めるうえで、現在の課題はどのようなことが挙げられますか?
2つの大きな課題があります。まず、国内では再生可能エネルギー(以下、再エネ)の電力価格が化石燃料の電力と比べて割高で、再エネ電力の調達が困難であるということです。
もう1つは、再生可能エネルギー由来の燃料が不足していると感じています。現在、事業で使用するエネルギーの購入に加えて、自らがエネルギーを生産していますので、燃料の再エネ化が世界的にも大きな課題だと考えています。
私たちの事業では、製造や品質を保つための殺菌などで、多くの蒸気を必要とします。国内事業によるスコープ1のCO2の排出量は、スコープ2に比べて2倍以上になります。蒸気を発生させるためのボイラーを動かすためには、ガスや重油が必要となりますので、カーボンゼロを達成するには燃料の再エネ化はとても重要なポイントです。
● 日本の政策として期待することはどのようなことでしょう?
比較する経済圏の規模は異なりますので、単純に比較はできませんが、脱炭素社会に向けた予算規模など、EUの方が日本より進んだ環境にあると言えます。これからは、再エネ電気の普及や燃料のグリーン化など、より一層の社会インフラ整備が求められます。また、2021年の前半には、エネルギー基本計画の見直しが予定されていますので、今後の再エネ比率など、その内容に注目しています。
今では、電力会社の一部は、従来の化石燃料から水素やアンモニアなどを活用することでカーボンゼロを目指しています。私たちよりはるかに多くのCO2を排出している電力会社の取り組みは、他電力会社や企業に大きなインパクトを与えると思っています。社会に大きな影響力を持つ電力会社が舵を切ってインフラを整えることで、私たちも再エネに取り組む環境が整うと考えています。
● 個別の企業が社会インフラを整えたり、社会変革を起こすことは難しいと言えます。RE100などのイニシアティブに参加して政府へ提言を行うことは重要です。
まさに、RE100に参加することによって、ほかの企業の方々と協力しスケールメリットを活かして、あるエリアでの再エネ電力を安く調達する、そうした取り組みができればと思います。今後はそうしたイニシアティブとの連携を強化していきたいと考えています。
● CDPからは、「気候変動Aリスト」にも認定されています。気候変動対策を進めることで、社会や投資家などの評価や反応はいかがですか?
外部評価となりますが、CDPからの3年連続「気候変動Aリスト」の認定により、一定の評価を頂けていると思っています。CDPの評価に基づき、サステナビリティ分野に特化したローン商品を提供する金融機関もあります。外部評価は私たちの通信簿ととらえ、今後も対応していきます。
また、2020年10月にはグリーンボンドを発行していますが、投資家の方々からは大きな反響がありました。
● グリーンボンドで調達した資金はどのようなことで使われますか?
再エネ電力の調達や省エネ設備の導入を考えています。また、私たちは飲料メーカーとして多くのプラスチックを扱っていますので、リサイクルペットボトルにも活用していきます。また、社有林「アサヒの森」の維持にも使われています。
● 森林を整備することは、水資源やCO2吸収源を保全する目的があると思いますが、ほかに事業との直接的な関連性はありますか?
本社ビル内にお越し頂いたお客さまが使用する会議室には、社有林の間伐材を使用したデスクもございます。
最近では、間伐材の植物繊維を原材料とした「森のタンブラー」を商品化しています。また、以前から間伐材はお客さま向けのノベルティグッズにも活用しています。
● 気候変動対応を進めることによる生活者や社会の反応はいかでしょうか?
最近は、営業部門からの再エネに関する問合わせも増えてきましたので、社会全体が動いていることを実感しています。
一般生活者向けには、ペットボトルのラベルレス商品を販売しています。ラベルをなくすことによって、捨てるときにラベルをはがすストレスもなく、廃棄物も減らし、CO2排出の削減にも貢献できます。最近では、事業者の方からのお問合わせも増えていますので、環境配慮型商品を取り扱いたいという意向も高まっていると感じています。
● 従来の商品と比べて、ラベルレス商品の売上はいかがですか?
ラベルレス商品の販売は好調です。ラベルレス商品は、単品の商品には原材料の表示ができませんので、店頭での販売条件を満たしておらず、個別の販売ができません。段ボール箱入りのEC向けの商品となりますが、ヒット商品となっています。最近は、箱売りをするディスカウントショップや生協さんなどにも販路を拡げています。
ラベルレス商品の売り上げをこれからもっと増やしたいと考えていますし、ラベルレス商品は商品カテゴリーの1つとして、会社からも認知されるようになりました。
● 販売量が多い商品だからこそ、1本1本ではわずかでも原材料を減らす取り組みは重要であると感じます。
法令順守の観点や、お客さま向けに最低限必要な情報を伝えるため、ラベルレス商品には、リサイクルマークなどが書かれたタックシールが貼られています。
昨年、他企業や業界団体と連携し経済産業省に働きかけ法改正されたことで、現在「アサヒ おいしい水」というミネラルウォーターのブランドにおいては、タックシールも貼ることなく販売できています。
業界全体でパートナーシップを組み、行政とともに取り組むことの重要性を実感しています。
● 私たちの独自調査(CSVサーベイ2020)では、生活者の気候変動への関心やそうした課題に取り組む商品の購入意向が高まっています。一方で、購入に至らない要因の1つに、「どのような商品が気候変動の課題に取り組む商品なのか分からない」との回答を得ています。
スーパードライは、グリーン電力を使用し製造していることがサステナビリティのWebサイトでは告知されていますが、商品情報ではその訴求ができていません。商品を通した生活者へのプロモーションやコミュニケーションがより必要であると感じています。
日本国内でグリーン電力を活用し製造された最大の商品は、スーパードライです。その取り組みは、2009年からスタートしています。「グリーンエネルギー(GE)マーク」を、缶やギフトセットの外箱に印字していますが、まだまだ十分に伝わっていないのも事実だと思います。
しかし、現在は、生活者も気候変動や再エネへの関心が高まっていると感じています。今後は、サステナビリティ部門と商品担当部門とがもっと歩み寄る時期にきていると思います。お取引先に取り扱っていただくために環境配慮型商品を開発することに加え、今後は生活者に知っていただき、売るためのアピールをすることが必要であると考えています。
TCFD(The FSB Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)のシナリオ分析でも、生活者の「エシカル消費拡大への対応」は、対応策の方向性の1つとして挙げられています。現在も、機能部門や事業会社でサステナビリティの取組みは進めていますが、今後マーケティング部門や営業部門とサステナビリティ部門との連携がより一層必要になるでしょう。
●さいごに、未来の脱炭素社会の実現に向けてメッセージをお願いします。
私たちは、2050年のカーボンゼロ目標を掲げていますが、スコープ3、つまりバリューチェーンを含めた高い目標であるととらえています。その達成のためには、自社の努力はもちろんですが、ステークホルダーの皆さんにもご理解をいただきながら、目標達成に向けて一緒に手をとって進めていく必要があります。
また、脱炭素社会への移行は世界中で動き出しており、その流れはもはや常識となっています。今後は、2050年を待たずに、いかに早い時期でのカーボンゼロを達成できるかがカギになると思います。私たちも、できるだけ早い時期での達成を目指し、その取り組みを加速していきます。
※この記事の情報は2021年01月29日メンバーズコラム掲載当時のものです
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