Members+ 経営x脱炭素 ビジネスコラム
「脱炭素」があぶり出す日本企業の経営課題~人的資本投資の重要性~ Members+対談#02【後編】
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「脱炭素」があぶり出す日本企業の経営課題~人的資本投資の重要性~ Members+対談#02【後編】

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「経営x脱炭素」に関するトピックについて、有識者とメンバーズ専務執行役員である西澤が意見を交わし合うシリーズ企画。#02は京都大学大学院の諸富 徹 教授と、日本企業の今とこれからについて語り合いました。
脱炭素のスローペース化を招いた日本企業の内向き体質について考えた#02 前編につづき、#02後編では脱炭素を通して直面している日本企業の課題について意見が交わされました。脱炭素が、経営の根幹に関わると考えらえる理由とは……?

語る人 ※文中敬称略
諸富 徹氏(京都大学大学院 教授)
西澤直樹(株式会社メンバーズ 専務執行役員 EMCカンパニー社長)

ロジカルシンキングが答えを出せない時代

西澤:脱炭素や気候問題に関しては、もはやビジネスの常識になっていると思うんです。グローバルを見れば、ビジネスリスクとして色々な企業が具体的な取り組みを進めていることは、情報として得ているはずなんです。それでも日本企業は依然としてそうなってはいません。
トップが本気で脱炭素を目指そうと思っているのなら、それを実行させる力がリーダーシップだと思うんです。ところが日本のトップの思考は、「周りが言い出しているから」とか、「やらなきゃまずいから」といったレベルに留まっているのではないかと思うのです。

諸富:人的資本投資をどうするのか、といった課題にも関わってくる話だと思います。
経営トップだけでなくミドル層も、たとえば書籍やネットで情報収集・分析し、自分なりの世界観を構築し、それをベースに次の仕事の展開を自分なり考えるということを、もっと社員に促さないとダメですよね。今ビジネスで立っている場所の延長線上のみで発想せずに、「ひょっとしたら、自分たちのビジネスを毀損するような新たなトレンドが来ているんじゃないか」といった目で疑ってみて、今現在も足元が崩れ始めているかもしれないということに対して、もっとセンスを磨かないといけない気がします。
 
脱炭素の浸透にこれだけ時間がかかったのも、そうしたことが要因ではないかと思うのです。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書などは邦訳されている(※1)し、それを読んで真摯に分析してみると、先進国が2050年までにCO2ゼロを目標にする理由を、論理的に認識することもできるはずなのです。
そういう情報があることすら知らないのではないかと私は思っていたのですが、西澤さんが言うように、情報があることは知った上で収集しようという意識がないのだとしたら、まずは情報に対してセンサーを働かせることが重要でしょう。自分たちが変わらなきゃいけない問題として、情報を受け取れるかどうか、ということです。

西澤:日本のビジネスマンからは、ロジカルシンキングという手法が非常に好まれてきました。ロジカルに物事を進めることで、品質の底上げや決定が合理的かつ楽という側面もあるのでしょう。計算でメリットとデメリットが出るものでしか判断ができないがゆえに、たぶん日本の成長はあったのだと思います。しかしすでに、単にリニアな成長を続ければいいという時代ではなくなっています。
企業にとって、現在の最たる経営課題は脱炭素でしょう。しかし、なかなか進んでこなかった理由の一つは、これまでのようにロジカルに考えた時に「それは無理だろう」となってしまうことだと思います。

目指すべきは1億総経営者

西澤:たとえば欧米では、チャレンジ目標として「何年までにCO2を何10%削減」などと数値を掲げている企業も多いのですが、実際には思うように達成できない場合もあります。そうなった時、日本の場合は責任問題になるとみんなが思っているから、いわば必達目標しか受け入れられない。だから、できない理由ばかりが先行して、チャレンジ目標を設定できない気質があるように思います。
社会の複雑性が増すにつれて、ロジカルに説明しづらいことが増えています。そういう物事をどう解決していくのか――脱炭素は、一つのリトマス試験紙なのではないでしょうか。
 
衰退の法則~日本企業を蝕むサイレントキラーの正体~」(東洋経済新報社/2017年刊)を読んで、また最近の情勢からも思うのは、「1億総経営者」になった方がいいということです。自分ごと化しない限り物事は動かないと思います。
さらに、日本には内と外を区別する文化があり、「世間」と呼ばれる壁があります。そういう文化自体を変えていくよりは、どれだけ「内」化していけるかということの方が大事だと思うのです。そして「内」を広げていくためには、自分自身が経営視点を持って仕事に取り組むようにしていかないと、なかなか日本企業は変われないのではないでしょうか。

諸富:1億総経営者ということは、従業員もこれまでのように、「責任やリスクを伴うことは全部トップが決めてくれるから、自分たちは見て従っていけばいい」というわけにはいかない、ということですね。
それは、「自分自身が一体何のプロフェッショナルなのか。どんなスキルを持っていて何に対して社会貢献をしたくて、会社の中ではそれをどういう風に果たして仕事をしていくのか」といったことを明確化すること。そして、「そのためにスキルを磨こう」と自ら動いていく意識が、もっと求められるんじゃないかという気がします。
 
組織と合わなければ、会社を出てもいいわけです。自分のキャリアを追い求めた結果、たとえば一時期はA社、次はB社に所属する、という方法もあるでしょう。そういう形で、自分の人生やスキルをコントロールする気持ちを開発していけば、世の中の変化に対して自分自身が適応する必要性や、会社が守ってくれるわけではない、などということにも気づき、対処法を考えることもできるでしょう。
しかし、会社という枠に守られているという意識が強ければ、やはり上を見ているだけで良いことになってしまいます。世界で何が起きていようが、上司が右を向けと言っているから右を向けばいい、と。

西澤:転職の事例が増えてきたとはいえ、いわゆる一流企業に入っていれば「その企業は絶対に大丈夫だし、自分も安泰だ」という意識が、日本にはまだまだベースにあるのだと思います。そうすると当然のことながら、外を見るより内に目が向いてしまいますよね。
アメリカを例にあげれば、たとえばマーケターにはマーケターとしてのプロフェッショナルがあるので、どこの企業に行こうが、スキルを磨いて自分自身の価値を高めていきます。
それに対して日本は、総合職として様々なことに取り組みながら、企業の中で偉くなっていくスタイルです。けれども、東芝や銀行の事例からも明らかなように、神話になっているような良い企業が生き残るわけではなくなってきています。
それでも、自分のスキルを磨く方向には動いていません。逆に、潰れる会社に行かないよう、さらに会社にしがみつこうという意識が強まっているように思うのです。
だからこそ、脱炭素は日本企業にとって、最大のリトマス試験紙なのだと感じているんです。組織の文化や構造、そして働き方にも関わってくる一大サブジェクトですから。

諸富:それにプラスして、脱炭素を通してデジタル化という課題も突き付けられています。
日本では森首相時代の2000年に、IT革命推進(※2)が掲げられました。しかし結局は、「手動だったものがパソコンでできるから楽になった」とか、「手書きしていたものがメールになって楽になった」程度で終わり、革命には至りませんでした。デジタル化は組織構造を変革していくし、組織の作り方やその運用方法なども変わるものです。
しかしこの時のIT革命は、業務効率化に留まり、価値創出方法の転換、つまりパラダイムシフトとして受け取られることはなかったのです。
 
1970年代に起きた石油ショックの時に、なぜ日本企業が過剰達成できて、世界で最もエネルギー効率の高い企業群として成立し得たのかといえば、高度成長期以来のものづくりの基本路線のレールの上に立ってアクセルを踏んだからです。言い換えれば、従来のものづくりの延長線上の発想で、今までよりもいっそうエネルギーを節約しつつ、高質な製品を生み出そうという目標設定は、日本企業にとって比較的受け入れやすかったということです。
しかし、リスクのある不確実な社会が到来し、敷かれたレールを行くだけでは対処できない時代になっています。そうなった時に、途端に弱みをさらけ出してきたなと感じています。

西澤:そういう日本の弱みを解決する方法の一つとして、もっと若者に投資すべきだなと思いますね。今までの固定概念みたいなものを崩して、「多少仕事ができなくても若者に任せてみよう」とか、「ここは女性に任せた方がいい」とか、幅広い人材の活用を進めた方がいい、と。

諸富:おっしゃるとおりですね。社会が変わると思います。そういう組織は、どうやったらできるのでしょうね。常に新陳代謝し、若い人がどんどん出てこられるような組織は。
かつて第二次世界大戦後に、ソニーやホンダ、松下などが急進した時代がありました。戦争で破壊されたことによって、それまで財閥支配だったものが整理され、年長ポストが空いたことで、若い人が自由に活躍できたことも大きかったと指摘されています。人工的にそういう状態を作り出すことは難しいかもしれないけれど……。

西澤:かなり意識してやらないと、難しいのだろうとは感じます。「年長者の方がスキルもあるし経験も豊富だから、長に向くのではないか」とか、「女性より男性の方がバリバリ仕事できるのではないか」などといったバイアスを意識して抜いていかないと。

諸富:本当に、おじいさんたち、みんな引退してほしいですよ。

西澤:(笑)

諸富:環境問題に関しては、おそらく女性の方が鋭敏な感覚を持っているケースが多いように思います。現に環境の世界では、女性論客がとても活躍しています。最近は審議会などでも、女性参画者の比率向上を目指している事情はあるにせよ、政策分野などにしても、環境領域は女性の活躍率が高いですね。
だから、パワーシフトが女性に移行するだけでも社会の進路は変わると、私自身は予測しているのです。

西澤:たとえばIBMなども、早くからサステナビリティを軸に据えて良い活動をしていました。女性CEOの就任なども、その一環だと思います。つまりIT業界でも、女性がきっかけをつくって、方向転換したりしているのです。

諸富:こうした組織の課題を深掘っていくと、ジェンダーの問題に突き当たることは多いですね。

西澤:そうしたことを含めて、日本企業は脱炭素という大きなリトマス試験紙で、色々なことを試されているのだと思います。そして、モノからコトへとサービス化が進んでいく中で、人的資本にきちんと投資していくことが、あらゆることの基本だと再確認できたように感じています。
今、日本企業は脱炭素に向かう姿勢を、世界から問われています。これまでの経済・社会の中で隠れていた、日本企業が抱える様々な病魔が一気に炙り出されている感があります。それをどう治療していくのかが、大きな課題です。

諸富:だからこそ、脱炭素とは経営問題なのだと思います。

西澤:そうしたことのすべてを、はらんでいる問題ですからね。

文責:岡 小百合

※1 環境省 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)サイクル
※2 平成13年版 情報通信白書

#02 前編では、脱炭素の遅れを招いた日本企業の内向き体質について意見が交わされました。ぜひ、あわせてご覧ください。


対談者プロフィール:
諸富 徹氏
京都大学大学院 経済学研究科 教授
メンバーズの脱炭素DX推進領域アドバイザー、環境経済学の専門家。特に環境税、排出量取引制度など気候変動政策の経済的手段(カーボンプライシング)の分析やグローバル経済/デジタル経済下の税制改革といったテーマに取り組まれる。直近では、資本主義が脱炭素化/デジタル化に向けて変容していく中で、市場と国家のあり方はどうあるべきかを問う研究にも従事される。
 
西澤 直樹
株式会社メンバーズ 専務執行役員 EMCカンパニー社長
2006年新卒でメンバーズに入社。大手セキュリティ企業のデジタルマーケティングプランナーとして5年間常駐したのち、2013年最年少部門長として現在のEMCに繋がる成果型チーム運営の基盤作りを行う。2017年にメンバーズ初のCSV事例を創出。同年から執行役員、2020年から現職。脱炭素×DXの両立をテーマに、脱炭素時代の新しいソーシャルバリューを生み出すことにチャレンジ中。

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