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「電力のインターネット化を目指す」 デジタルグリッド株式会社:Social Good Company #36

※この記事の情報は2019年09月06日メンバーズコラム掲載当時のものです

東日本大震災以降、日本が直面するエネルギー問題。デジタルグリッド社が目指す社会の実現により、その課題は一気に解決に向かうでしょう。今回は、IoTとブロックチェーン技術により、電力のインターネット化を目指す、デジタルグリッド社にインタビューの機会をいただきました。

  • 電力のインターネット化を実現するカギは、IoTとブロックチェーンによる技術開発

  • 東日本大震災以降、再生可能エネルギーの企業ニーズは大幅に高まる

  • エネルギー分野に留まらず、今後は様々な社会課題の解決を図る

<インタビューにご協力いただいた方> 
デジタルグリッド株式会社 代表取締役社長
豊田 祐介 さま
<プロフィール>
2012年東京大学大学院工学系研究科修了(技術経営戦略学専攻/阿部研究室卒業生)後、ゴールドマンサックス証券に入社。戦略投資開発部においては主にメガソーラーの開発・投資業務に従事。2016年よりプライベートエクイティファンドのインテグラルにおいて投資業務を行い、2018年よりデジタルグリッドに参画。2019年7月2日にデジタルグリッド株式会社代表取締役社長に就任。

● はじめに、会社のご紹介をお願いします。

停電で電気が使えないにときに不便だなと思うことはあっても、普段、電気があることに感謝することはありませんよね。

● 電気は私たちが生活するうえで、欠かせないものですが、今の日本では、あって当たり前です。

あって当たり前の電気をパッケージ化しようというアイデアが私たちの事業コンセプトです。

水は当たり前のように蛇口から出ますが、それがパッケージ化され商品名が付くと高く売れます。当たり前だと思っていた電気も、どこで誰が作ったものか、どこを経由して使われているのか、モノとして具現化しています。

会長を務める創業者の阿部が、2008年頃、東京大学でそうした世界を作ろうと研究を進めたのが始まりです。自治体にも協力をいただきながら10年という時間を掛けて電気の選別をしました。当時私は大学3年生でしたが、「電力がインターネットになる」という話を聞き、研究室に入ったのが、この世界と出会うきっかけとなりました。

その後、修士課程も含め、4年間研究をしますが、1番のターニングポイントは、東日本大震災でした。あの震災では、原発も停止し、初めて日本がエネルギー問題に直面することになります。その後、大学院を卒業して、金融機関に入り、メガソーラーを建設する仕事にずっと関わってきました。

● 提供されている技術を使うと、エネルギーのどのような社会課題が解決されますか?

根本的な考え方として、再生可能エネルギーをもっと増やしたいという考えがあります。それには、消費者がプロアクティブに電力を選ぶ世界を作る必要があると思っています。

なぜ、再生可能エネルギーを増やす必要があるかと言えば、単純に限界費用が低いからです。太陽光発電は、太陽が照らせばエネルギーを生むことができますし、風力発電もそうです。これまで、エネルギーが原因で戦争が起きていますが、そうしたことから解放される世界を作ることが望ましいと考えています。

まずは、再生可能エネルギーをプレミアム商品として売り出し、再生可能エネルギーであれば、少し高いお金でも買いたいという人や企業を結び付けたいと考えています。

● そうした社会を実現するため、ブロックチェーンの技術があるわけですね。

そうですね。実は電力会社は、電気料金の管理や徴収にとても手間を掛けていますので、決済をリアルタイムで決済を実現したいと考えています。また、IoTデバイスを通して、電気を計測したりブロックチェーンと接続しています。

デジタルグリッドコントローラー

そうした電力の計測や売買のデータは、信頼性を担保したうえでクラウド上に上げる必要がありますが、このデバイスには秘密鍵が入っていて、私たちも内部データに触ることはできませんので、改ざんも一切できません。つまり、私たちのようなベンチャー企業でも取引内容に信頼性を持たせるために、ブロックチェーンが必要であったということです。今は電力の産地証明のために使われています。

● そうした発想に至ったきっかけを教えていただけますか?

会長の阿部が、ドイツの大手電力会社 Innogy社とブロックチェーンの協議したことがきっかけです。電気にIPアドレスを付与する方法を考えていましたが、技術的に難しいため、相性が良いブロックチェーンの技術を採用しています。

● 日本の電力業界は、新電力会社が設立され発電の自由化は進んでいますが、系統は未だ自由化されていません。

大手の電力会社が持っていますね。

● そうした環境にあって、この技術を使うと、発電元を特定して希望する電力を使うという、系統の自由化が実現するということですか?

電気の性質上、どの場所で作られた電気がどこで使われているのか誰も把握することはできません。しかし、私たちは、需要側と発電側の末端にメータを付けて、ある特定の家庭がその瞬間にどれだけ電気を使っているかをすべて計測することを可能にしています。

ある発電所で何時何分に作られた電気が、どの家庭でいつ使われたかを紐付け、電気の計測と利用とをトラッキングし、トランザクション処理をすることを実現しています。

● こうした分野の世界的な技術動向を教えてください。

アメリカのブルックリンではブロックチェーンの技術が使われ、実証実験が進められています。しかし、既存の送電網は使われず、自営の系統内での仕組みとなります。送電網を使って電力を瞬時に記録し、売買する市場を作ることは、現在、世界でもあまり例がないと思います。

また、既存のインフラを利用しますので、多大な投資の必要がないことも私たちの強みであり特徴です。たとえば、宮城の発電所で作られた電気が、東京にある宮城の物産店や料理店で使えることになります。お金の取引きと一緒で、決済上、そうした取引をするということです。電力でもお金と同じ世界が実現できます。

新しい電力会社では、Peer to Peerを行う会社もありますが、私たちは、電力会社ではなく、自由に使っていただける場を提供しています。電力を売りたいと思う方と、買いたいと思う方とが、自由に売買できる場を提供しているということです。

● 電力のプラットフォーマーということですね。収益のモデルを教えていただけますか?

たとえば、オーガニックレストランで、今日の野菜を作った農家の方の写真が出ていたりしますが、それと同じように、今日に電気はこの発電所で作られたことを明示するということです。ブランド野菜が高くても売れるように、電気も意味があれば、多少高くてもその電気を使うことになるでしょう。つまり電力に付加価値を付けているわけです。

現在では、大手企業さまを中心に、40社以上に出資をいただいています。

● 大手企業の出資のニーズは何ですか?

ほとんどの企業が、クリーンな電気を必要としています。SDGsの目標達成や、RE100(自社で使用する電力を100%再生可能エネルギーとする国際的なイニシアティブ)を宣言する企業です。また、再生可能エネルギーは、自社での利用に加えて、サプライチェーンも含めて意識する企業もいらっしゃいますので、B2Bの市場をカバーしていることにも賛同いただいています。

● 再生可能エネルギーの企業ニーズは増えていますか?

東日本大震災以降、企業のニーズは高まっていますし、供給も増えていますが、今は大きな課題を2つ抱えています。

1つは、発電した電力はその場に留まることができないことです。発電した電力はどこかで使うのが大原則です。電力の自由化により、現在、国内の電力会社は1,000社まで増えましたが、そうした電力の管理は大小問わず電力会社がやっています。まさに、24時間、365日体制で、需要の予測をしながら人手を掛けて管理していますので、そこにはテクノロジーで解決する余地があります。

2つ目は、電力が余ったり足りなくなったりすると電力取引市場で売買されますが、kWh当たりの単価が0.01円のときもあれば、100円の値をつけるときもあるなど相場が変動することです。

しかし、その相場のカギを握るのは、多くの電力を発電する大手電力会社です。季節により、電力需要が高まるため、大手の電力会社が市場での取引をしなければ取引価格は上がりますし、余った火力発電の電力が市場に多く出回れば、価格は急落します。そうした、中小の電力会社が苦しむなかで、私たちはビジネス解決のソリューションにもなり得ると考えています。従来の電力取引ではなくて、世の中の余った電気や、需要が高まっているクリーンな電気を誰でも使えるようにするということです。

また、現在の市場であるJPEXの取引は、金銭面も含め資格取得のハードルが高く、会員企業数も数十社程度です。私たちは、そうしたプロだけではなく、誰でも参加できるマーケットを作りたいと思っています。現在、国内の電力市場は、13兆円もの規模があります。私たちは、その電気料金の一部に対して課金する手数料ビジネスですが、将来は数千億円の規模を目指したいと考えています。

● とても大きな市場だからこそ、手数料ビジネスでもそれだけの規模を目指せるわけですね。

そうなんです。今は、B2Bでの電力取引となりますが、今後は、環境価値をブロックチェーンを使って証明するビジネスも実現したいと考えています。環境価値そのもののニーズが高まれば、結果的に再生可能エネルギーが増えるでしょう。そのための基盤を作り、今後はそのプラットフォームを海外でも展開したいと思います。

● B2C市場への参入は計画していますか?

もちろん視野に入れています。私たちの株主にはハウスメーカーさんもいらっしゃいますので、その企業のお客さまへの営業も考えています。

● 改めて、こうした事業に関わった動機を教えていただけますか?

やはり大学時代に、電力がインターネットのようになるということ。そして、エネルギーを誰もが自由に使えるという分散化に関心を持ったからです。

今は、電力等のエネルギーは節約することが当たり前ですが、限界費用が限りなくゼロに近い再生可能エネルギーがもっと拡がれば、自由にエネルギーが使える世界も実現できます。そうなれば、新しい産業も生まれるでしょう。それ程、再生可能エネルギーは可能性があると思っています。通信の世界で、ここ30年で起こったことが、この数年、電気の世界で起こるということです。

以前は、電電公社の電話しかありませんでしたが、新しい通信会社が誕生し、今は、SkypeやLINEのようなサービスで、海外とも無料で通話ができます。つまり、消費者が通信会社を選択しているわけです。さらに、今は通話に加えて、映像のやりとりもできますし、映像コンテンツの発信者にもなることができます。

また、電気というネットワークが個人アカウントにも紐付くようになるでしょう。たとえば、個人が保有するスマートフォンをオフィスで充電すれば、その電気代は会社が負担することになります。しかし、将来は個人のアカウントとしてその電気代を個人が負担することができるようになります。

撮影:樋宮 純一

● 再生可能エネルギーへのこだわりをもう少し教えてください。

クリーンな電気が結果的に電気の世界においては1番コストが安いと思っています。自然の恵みにより、既にあるものを使わせていただいているので、長期的には、もっともリーズナブルになります。

火力発電所は、20年経って減価償却が終わっても、燃料を買い続けなければ発電できません。しかし、再生可能エネルギーは、お日さまが照ったり、風が吹いたり、温泉の熱を使ったりすれば電気になるわけです。それはとても美しい姿ですし、それを地産地消で実現できれば、とても素敵だと思います。

● 弊社では、CSVの実現において、デンマークを参考にしています。現地視察もしましたが、ロラン島では、電力自給率が700%で、コペンハーゲンや海外にも電力を販売しています。そうした世界を日本でも実現したいですね。

欧州でそれができるのは、送電網が繋がっているからです。デンマークやドイツでは、作り過ぎた電力を手放す事もあるため、電力価格がマイナスになったりします。余った電力を受け取ってもらうために手数料を支払う、そうした面白い市場になっています。

● 今後のビジネス展開を教えていただけますか?

まずは、ITで完結するPeer to Peerの電力売買の仕組みを実現します。また、それに関連して、その環境価値、産地証明の仕組みを計画しています。また、将来は発電機を制御することにより、停電時でも電力を供給する世界を作ることが完成形と考えています。

● 最後に、2030年の目指す未来を教えてください。

以前、金融機関に勤めていたときに、多くの太陽光発電の設備を開発しました。メガソーラーは山地に作られることが多いため、森林を伐採しながらもこれが良いことであると信じてやってきました。そして、2032年には、再生可能エネルギーの固定価格買取制度が終了し、電力に関しては素人が発電した電力が多く出回ることになります。しかし、そうした電力をきちんと制御し届けるインフラがないと社会は混乱してしまいます。

これまで信じて進めてきたことを、世の中にきちんと浸透させるために、それを制御できるプラットフォームを今、作っていると言っていいでしょう。そうなれば、国内自給率10%程度の再生可能エネルギーの世界が、まったく違うものとなるでしょう。そして、エネルギーに加えて、次の課題を解決していきたいと考えています。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月メンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長、2022年度からは、アースデイジャパンネットワークの共同代表を務める。

※この記事の情報は2019年09月06日メンバーズコラム掲載当時のものです

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