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「今日よりも良い明日の実現を目指す」 コモンズ投信:Social Good Company #31

※この記事の情報は2019年05月10日メンバーズコラム掲載当時のものです

社名の由来は「Common Ground」。その意味は、「同じ思いに共感して集まる共有地」。

長期積立投資、そして「今日よりも、よい明日」という理念に賛同し人々が集まる場を提供するコモンズ投信。それは単なる金融商品の運用や販売に留まらず、事業を通して、より良い社会を実現するための仕組み作りを提案していると言えるでしょう。

今回は、日本の資本主義の父と言われる渋沢栄一さんの直系5代目で、コモンズ投信の創業者である渋澤会長にお話を伺いました。

  • 金融庁が開示する投資信託販売会社の成果指標では、トップの成績。

  • 目指す投資は長期的視点による、今日よりも良い明日

  • 投資先企業の判断基準で重視するのは、非財務面の見えない価値

<インタビューにご協力いただいた方>
コモンズ投信株式会社 取締役会長
渋澤 健 さま
<プロフィール>
テキサス大学化学工学部卒業後、財団法人 日本交流センターを経て、87年にUCLA大学MBA経営大学院卒業。JPモルガン、ゴールドマンサックス等、米系投資銀行でマーケット業務に携わり、1996年に米大手ヘッジファンドに入社。2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業し、代表取締役に就任。2007年にコモンズ株式会社を創業、2008年にコモンズ投信株式会社に改名し会長に就任、現在に至る。

● 昨年秋に金融庁が発表した投資信託販売会社の成績表では、実に97%の顧客が収益を上げているという素晴らしいパフォーマンスを示しています。

投資信託業界は、親会社である証券会社や銀行が、投資信託を運用する子会社のファンド(商品)を販売して手数料をいただくのがビジネスモデルでした。そして、大手の投信会社は、多くのファンドを扱っています。複数のファンドを扱えば、収益が出ているものもあれば、そうでないものもあるでしょう。

一方で私たちのファンドは2本に限定し、投資の対象も株式投資です。特徴は長期的な投資であり、積立投資であるということです。

昨年秋の発表時は2018年3月末の実績であり、97.7%のお客さまが収益を上げているとの結果でしたが、年末に株式相場が下がった際には、その割合も減りました。つまり、株式相場により、変動します。

ただ、私たちは、2009年からコモンズ30ファンドを立ち上げていますが、2015年以前に口座開設をして長期的に積み立て投資を実践されているお客さまのほぼ全員へ含み益を還元できているという実勢があります。私たちは、目先の株式の上げ下げではなくて、長期的な視点で積み立てていくことによって、少しずつストックをつくり上げていくというのを基本的な考え方としています。

そういった意味では、私たちが重要視するKPIは、いかに多くの方が積立を継続していただけるかということです。去年の2018年3月末ではコモンズ投信の79%が積み立て口座でした。現在でも78%です。

● 調査結果では、独立系とネット系の投信会社が上位を占めています。既存の会社と比べて、意思決定のスピードや経営方針、パーパスの明確性が影響しているかと思いますが、いかがでしょうか?

私たちの意思決定が特に速いというのはありませんが、考え方がブレないということではそうでしょう。そして、先程もお伝えしたように、独立系は運用するファンド数が限られています。

ファンドを売るために多くのファンドを作るのではなく、自分たちが運用したいファンドがあって、そのファンドを運用するために会社を作っているのが独立系の会社です。そういった意味では、ファンドが厳選されていることが、成績表にも表れているかと思います。

● 30年の長期投資という考え方で会社設立に至ったきっかけ何ですか?

自分に子どもができたことです。2000年に生まれた幼い子どもが将来、成長し、海外留学や起業等、チャレンジしたいことを後押する応援資金をつくりたいと考えて、2001年の春に子ども名義で口座を開設し、積立投資を始めたのがきっかけです。

その後に生まれてきた次男や三男にも同じように積み立て投資の口座を開設しました。長男が生まれたときの日経225株式指数が13,000円ぐらいでしたが、三男の時には8,000円まで半減していました。しかし、気持ちが目減りすることありませんでした。半減すれば、同じ金額で倍の口数が購入できるからです。子どもが親から独立するのは、20年位の時間が必要なわけですが、長期で考えれば、値段が下がったことでより多くの口数を買えるのは、むしろラッキーであると考えました。

それまでの自分は、金融市場で短期の取引を行ってきました。ただ、下がってもうれしい投資があるんだ。それも、誰もが簡単に実践できる投資が。こうした考え方を日本全国に広めたい。つまり、現時点での損得ではなくて、次の世代の子どもたちのための積立を浸透させたいと考えたからです。

もう1つは、企業経営者のなかには、ファンドのショートタームイズム(短期志向)を問題視する人もいます。ただ、一般個人の積立投資はロングターム、長期的に持続的な価値を創造する企業とお付き合いができます。

一個人が少額を投資しても、企業側にとっては存在感がありません。しかし、ファンドとしてであれば、企業側からも認知してもらえるし、投資家として企業との接点を持ち、相互的な理解を高めるための「対話」も実践できます。

● 貴社で扱うファンドの投資先は、日本企業の株式に限定されています。日本企業のみに投資する意図は何でしょう?

日本株に限定する必要があるわけではありませんが、現状ではそうなっています。

理由は、私たちのお客さまである投資家は、日本人だからです。私たちは投資先の企業もすべて開示していますので、投資家自らが投資先の企業のWebサイトにアクセスすれば、日本語でその企業のことを簡単に調べることができます。また、日本人が日本企業を応援することは当たり前であり、日本企業が日本人の期待を応えることも当然なことだと思います。

私たちは、投資家の方々と企業のあいだにタッチポイントを多く持つことを重視しており、数多くのセミナー等を開催しています。これが、コモンズ投信が目指している対話、体感型の長期投資です。

儲かるか儲からないかという、金融商品の機能だけに興味を持つ投資家もいます。もちろん儲けることは大事ですが、そこには何か意味がなければならないと考えています。

その意味の1つは、投資を通じて、自分自身の気付きや学びがあった方がいいだろうということです。2つ目は、投資家自身が投資先や運用者と一緒に、同じ仲間として何かを作り上げること、つまり共創することに意味があると思っています。

つい最近、投資家の方々にも参加いただき、COMMONS FESTAという創業10周年のイベントを京都と東京で開催しました。イベントでは、私が投資先企業トップとの対談も行いましたが、会社の事業説明ということより、経営者の人柄や想い、どういう世界観で会社を経営しているのか、ということに関心があります。

つまり、イベントに参加すれば、そういったことが体感できます。また、たくさんの小さなお子さんにも参加いただき、とてもアットホームなイベントでした。多くの学生ボランティアの参加もありましたし、お客さま自らが、イベント運営に手を挙げていただきました。まさに共創です。

新しい会社を立ち上げて、新しいファンドを世に出すということは、こうした意味が必要であると考えています。

● 長期投資や積立の考え方は理解を深めることができました。そうしたなか、コモンズ30ファンドは投資対象を30銘柄程度に絞り込んでいます。

日経225でも、良い会社はたくさんあります。でも、良くない会社もたくさんある。そういう意味で、本当に自分が良いと確信した会社だけに投資したいと考えていますので、厳選する必要があります。

● 厳選する基準として、投資先企業の「見えない価値」を重視しています。

コモンズ30ファンドが私たちの基幹ファンドになりますが、掲げる基本方針は、30年投資です。つまり、親から子へと引き継ぐという世代を超える投資です。人生を考えたときに、30年という期間は一世代であり、次のステージに入っている可能性が高いと言えます。

自分自身の将来に加え、あるいは子たちの未来のための投資があってもいいのではと考えています。そうしたなかで、厳選した会社と対話をしていくのが、私たちのファンドの特徴です。

見える価値、つまり財務的な価値は過去の取り組みの結果です。そして、現時点の財務的な数値が、10年後、20年後を予測するのに役に立つのかと言えば、疑問です。過去の成功体験の延長線上に未来の成功があるとは限らないからです。

私たちは、投資先企業の評価基準として、5つの領域について分析します。まずは、見える価値である「収益力」、つまり財務的な数値です。そして、それから見えない価値として、「競争力」「経営力」「対話力」「企業文化」があります。

「競争力」や「経営力」は、競合比較や経営者のスコアリングで、数値化することも可能かもしれません。ただ、「対話力」や「企業文化」は数値化することが非常に難しい。しかし、数値化できないものは意味がない、重要ではないとは考えていません。数値化できる見える価値とは氷山の一角です。むしろ、ほとんどの企業の価値とは水面下で「見えない」のです。

20年、30年とブレない企業文化があるからこそ、自らの会社をステークホルダーに説明できる「対話力」があり、「対話力」がある会社であれば「経営力」を発揮できるでしょう。「経営力」が発揮できれば、「競争力」も増すでしょうし、「競争力」があれば「収益力」もあるでしょう。そう考えると、将来の持続的な価値の源は、非財務面にあるのではと考えています。

また、この「見えない価値」を一言で言えば、そこで働く人だと思います。どの会社でも「我が社の最大な資産は人」と言います。しかしながら、どの企業の貸借対照表の資産側に「人材」が計上されていません。どういう人がどんな想いで働いているのかという事を把握するのは簡単ではありません。でもその会社は、その会社に所属する人が働くことによって、持続可能な価値を創っています。

私たちが、対話を重要な1つのキーワードとしているのは、経営者に加えて、管理職や一般の社員がどういう想いで働いているのかの理解を高めるためです。当然ながら全員と話をすることはできませんので、多くのタッチポイントを持つことによって、理解を深めるようにしています。

● 5つの軸に加えて、社会にとって良い会社かどうかといった評価軸の視点はありませんか?

持続的な価値をつくる企業は、基本的に社会にとっても良い会社であると思います。

一方で、日本にはもったいない会社が多いと考えています。もったいないとは、優秀な人材を本当に活かせているかということです。たとえば、金融機関は優秀な人材を数多く採用していますが、そのポテンシャルをフルに活用していると言えますでしょうか。

● しかし、金融には、ESG投資やブラックロックの影響力等、会社経営や社会を変える力があると感じています。

コモンズ投信を立ち上げた理由の1つはそこにあります。本来、金融は素敵な仕事であるべきです。お金は、単なる決済や投資の機能ということだけではなく、そこには意味が必要です。

ブラックロックの表明もそうですし、グリーンファイナンスも意味を表現していると言えるでしょう。

● 貴社では、収益の一部を寄付し、社会起業家や障がい者の支援も行っています。

会社の立ち上げ前から、信託報酬の一定の割合を社会に還元したいと考えていました。私たちが目指す投資は、今日よりも良い明日 ということです。

それぞれの分野で様々な社会課題がありますが、社会起業家は、それらを解決しよう、良い明日を実現しようとしています。寄付からの「利益」は自分へ金銭的に還元されるものではありません。しかし、より良い社会を作れるのであれば、将来の子どもたちに良い世の中を残せる。これは、社会的な長期投資です。

寄付とは意思がある新しいお金の流れをつくることです。意思がある新しいお金の流れを作ることは、社会貢献ではなく、今日よりも良い明日をつくる、私たちの本業だと思っています。同様に、障がい者支援も、ザ・2020ビジョンというファンドを通して寄付をしています。

● こうした社会起業家や障がい者の支援は、投信会社の企業の競争力にも影響力を与えていると思いますか?

これらの取り組みと投信会社のパフォーマンスには関係が無いと思っています。

投信会社として良いパフォーマンスを出すことは、どの会社も目指していることですが、それだけでは、新たな存在意義がありませんし、新しく会社を立ち上げた意味もありません。

● 2024年度に発行される一万円札には、渋沢栄一さんの肖像画の採用が決まりました。そのニュースを通して初めて知りましたが、論語と算盤では、「真性の利殖は仁義道徳に基づかなければ、決して永続するものではない」と記されています。これは、今まさに企業が求められるサステナブル経営と言えます。

キャッシュレス社会が進むなかで、決済機能だけを考えれば、紙幣は必ずしも必要なものではありません。しかし、そうしたなかでもっとも高額な一万円札の肖像画が経済人の渋沢栄一となりました。

行き過ぎた資本主義の弊害もありますが、論語と算盤や他の文献を読み返してみると、持続可能性やESGに通じるもがあります。それは、本来持っている可能性をもっと活かすべきであるという、未来志向のメッセージです。

論語と算盤は一見、矛盾します。論語と算盤を合わせるのは飛躍かもしれません。ただ、矛盾には新な創造が隠れている可能性があります。仮に、矛盾をマッチングさせることができれば、新しい創造ができたことになりますね。様々な問いかけや飛躍があり、そこから新しい創造を繰り返すことができたから人類は文明を築くことができたと思います。

自分のことだけを考えて、損得を考えていたら、人間は文明を築くことは出来なかったでしょう。利他の精神があったからこそ、人間は今の社会を築くことができました。利己と利他は別々の存在ではなくて、利己に時間軸を加えれば、利他に繋がると考えています。

問いかける力や想像力を常に働かせることは、これからの日本にとって更に重要になるでしょう。

● 最後に、コモンズ投信の今後のビジョンをお聞かせ下さい。

コモンズ投信の名前の由来は、Common Ground、つまり、同じ想いに共感して集まってくる共有地という意味です。

儲かったかどうかという無機質なことではなく、その共有地を通して、ライブ感のある空間を作りたいと思います。同じ想いの人が集まれば、楽しくなるし、楽しくなれば、より良い世の中が待っていると考えています。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月メンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長、2022年度からは、アースデイジャパンネットワークの共同代表を務める。

※この記事の情報は2019年05月10日メンバーズコラム掲載当時のものです

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