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「次世代にバトンを託すためのバックキャスト思考とは?」 東北大学 石田秀輝名誉教授:Social Company 特別編 #33

※この記事の情報は2019年08月19日メンバーズコラム掲載当時のものです

超少子高齢化による人口減社会をはじめとする課題先進国、日本。私たちは今後、どの様な未来を描き、どう行動すべきか?

今回は、「バックキャスト思考」の書籍を著し、心豊かな社会の実現に自らが奔走する、東北大学 石田 秀輝 名誉教授にお話しを伺いました。

  • バックキャスト思考とネイチャー・テクノロジーにより、家電製品やクルマ等の本質を考えれば、これまでとは違った姿が見える。

  • 「心の豊かさ」の構造は解明され、マーケティングにも活用可能。

  • 1つの地球で暮らすことの解を見つけなければ、次の世代に渡すバトンはない。

<インタビューにご協力いただいた方> 
東北大学名誉教授 星槎大学特任教授
合同会社地球村研究室 代表社員
石田 秀輝 さま
<プロフィール>
1953年岡山県生まれ。1978年、伊奈製陶株式会社(現・LIXIL)に入社、取締役CTO(最高技術責任者)を務める。2004年より、東北大学大学院 環境科学研究科教授として、「ネイチャー・テクノロジー」を提唱、国内外で数多くの賞を受賞。2014年3月、同大学を退任、沖永良部島に移住し、現在に至る。著書に『自然に学ぶ粋なテクノロジー』(化学同人)、『正解のない難問を解決に導く バックキャスト思考』(ワニブックス)等、多数。

● 「バックキャスト思考」を拝見して、世の中の企業の多くは、社会の制約をまったく考えずに勝手な未来を考えているに過ぎないと書かれていることが印象的でした。本書執筆の動機を教えていただけますか?

企業の経営コンサルティングを通して、色々な人と話をする機会がありますが、従来の延長での思考、つまり、過去の成功体験を基本にした思考ばかりです。それはそれで貴重な財産ですが、今の時代にはほとんど通用しません。

物質的消費欲求の劣化と僕は言ってますが、かつて3種の神器と言われていたテレビ/冷蔵庫/洗濯機、これはとっくに世帯普及率100パーセント超えています。また、総務省の調査結果では、モノより心の豊かさを圧倒的に多くの人が求めています。しかし、企業は相変わらずモノの豊かさばかりの戦略で、3種の神器の家電も、もう技術的にはやることはほとんどありません。

百貨店もそうです。従来、百貨っていうのはモノがなかった時代の百貨であって、モノがあふれる時代には、これまでとは価値観を変えなければならない。その価値観を変えられなかったのが、平成の30年間です。
平成の30年間で、日本のGDPは1.12倍なのに、アメリカは3倍、ヨーロッパも2.5倍を超しています。完全に停滞しているのに日本の経営者の思考回路は変わらない。そこにすごくジレンマっていうのは感じていました。バックキャストの考え方は、30年位前に、大前 研一さんから学んだ手法で、これまでは研究のために使っていましたが、経営戦略にも使えると思ったからです。

● そう感じ始めたのは民間企業に勤めていたときですか?

大学に勤めてからです。そういう世の中はおかしいと思いながら、何がおかしいか分からなかった。しかし、大学での10年間の研究のなかで、工学だけでなく、哲学や社会学も含めた横断的な概念であるネイチャー・テクノロジーを組み立ててきましたが、その根幹となる視点は「制約のなかで豊かである」という概念で、これは従来型の思考では解が出ないのです。

従来型の思考を変える必要があるのに、多くの企業は変えない努力をしています。バックのギアでは走れないわけです。そうした社会的な限界に、ポジティブな新しい光を入れるということです。

● 本書では、自然界から学ぶ、ネイチャー・テクノロジーにも触れられています。

たとえば、エアコンは、商品としてできることはほとんどやり尽くしています。すると、「エアコンをこれからどうしたらいいですか?バックキャストやネイチャー・テクノロジーで教えてください」って日本の企業の方が相談にいらっしゃいます。

エネルギー効率を良くするということであれば、室外機のファンの表面に小さな凹凸を付ければ、効率が上がります。ザトウクジラが沈まないのも、ヒレに小さな凹凸があって、それが水の抵抗を減らして、効率よく泳いでいるからです。それが生き物や自然から学ぶネイチャー・テクノロジーです。

● 表面を滑らかにするよりも、凹凸があるほうが抵抗を減らせるんですか?

減らせるんですね。フクロウが滑空してネズミ捕まえるときも、音がしないように、羽の後ろに小さなギザギザが付いていて、そこで小さな渦を作っている。無音で滑空できるから、獲物を捕らえることができる。そうした凹凸やギザギザを付ければ、エアコンの効率上がるわけですよ。

しかし、それでは、既存のものの置き換えに過ぎません。これまでのエアコンを効率の良いエアコンに置き換える。クルマも今のガソリンエンジン車を電気自動車に置き換える。しかし、こうした新しいテクノロジーは、ほとんどが、社会に貢献できていません。

● エアコンのエネルギー効率が上がることにより、省エネにはなりますよね。

いや、なりません。テクノロジーとしては効率が上がって省エネにはなります。ところが、そうした商品を世の中に投入しても社会に貢献はほとんどできません。

● 最近の家電製品は、省エネに対応して、エコ商品と呼ばれています。

ですよね。エアコンも冷蔵庫もテレビも何でもエコって言われています。では、日本の温室効果ガスが減っているかと言えば、全く減っていません。要するに、エコが消費の免罪符になっています。

そして、商品は相変わらず、大量生産、大量消費で以前とまったく変わらない。テクノロジーはエコでも、社会には貢献しない、つまり、温室効果ガス削減に貢献する商材を市場に投入していないということです。僕はこれをエコ・ジレンマと呼んでいます。

● 確かに、家電の省エネ対応や電球のLED化が進んでいるのに、国内のCO2の排出量に劇的な変化はありません。

本質の議論ができていないということです。エアコンをバックキャストという思考で考えてみましょう。エアコンは電気や資源を使います。それを否定するわけではありませんが、本質の問題は何か、すなわち、エアコンは本来何しているかと言えば、空気質をつくっているんです。

空気の温度や湿度、風の心地良さをつくっている。つまり、それをコントロールすることができればいい。では、なぜ、電気を使わなければならないのか、そうしたスタンスに立つと、今のエアコンとはまったく違うものが見えてきます。

● クルマに置き換えれば、その本質は、人や荷物の移動ということですね。

クルマもCO2を出さないように、電気自動車を開発しています。しかし、制約を考えると、電池は化石燃料と比べて体積密度も質量密度も1,000分の1ほどしかない。50ccのガソリンで1km走るクルマが、50ccの体積の電池では、1mしか走らない。それなのに2tのクルマのエンジンをモーターに、ガソリンタンクを電池に置き換えるだけではとても実用的なものとは言えません。

そうした置き換えの解決法は必ず行き詰ります。技術的に実現して社会に投入しても意味のないものになってしまいます。それが過去の経験ではっきり分かっているのに、相変わらず同じことをやっているのは、結局本質が見えてないということです。

人の意識を切り替えるために、今のクルマを電気に変えるのはいいでしょう。では、その電気自動車の次の進化型が何かと問うても、現在の延長にその解はありません。

● 水素自動車はどうでしょう?

ほとんどの人がそんなことしか言いません。バックキャストっていうのはそうではなくて、入り口は今のクルマを電気に置き換えてもいい、しかしエネルギーも資源も少なくなったときのクルマや暮らし方を考えれば、たとえば、クルマのいらない町創りをしようということです。しかし、ハンディキャップのある方やお年寄り、ほかにも移動するヒトやモノはあるでしょう。

では、クルマのいらない町に必要な移動媒体は何かと考えれば、2tもあるようなクルマではないまったく違ったモノが見えてくるでしょう。そして、それに必要なテクノロジーは何かと考えれば、従来型のテクノロジーもフルに使えるわけです。従来のものと違うものがイノベーションと言われていますが、新しい組み合わせを見つけることもイノベーションと言えます。

そうした見方に変えていくと、今ある技術でまったく違う世界がどんどん見えてくる。だから、まずは今の車を電気自動車に、次はおしゃれな一人乗り用の移動媒体を、さらにそれが人とのネットワークをつくり、車の要らない町つくりにつながる。そして最終的にはそんな町同士が緩やかにつながった自律分散型社会ができる。今、目の前にある問題をバックキャストで考えると、未来につながる次の手が全部見えてくる。そういう思考回路に変えなければなりません。

● 先程から話に出るネイチャー・テクノロジー、つまり自然界から学ぶ発想にどうやって行きついたのかを教えていただけますか?

新しいお風呂の開発に関わることになり、原点に返ることから始めたのがきっかけです。

企業の役割は、人を豊かにすることです。2030年に日本の世帯数は4,900万世帯位になりますが、その頃の地球環境はもっとも厳しい時期であると思っています。人口は減っても世帯数は増えていく。要するに、世帯数イコール、エネルギーや資源の消費量のため、2030年くらいがもっとも環境に負荷が掛かるでしょう。エネルギーや資源に制約がかかるなかで人を豊かにするとはどういうことかと考えたわけです。

4,900万世帯の人がお風呂に入ると、25mプールで、37,000杯の水と、それを40℃に温めるエネルギーが必要になります。その水やエネルギーを供給できるのかと言えば、厳しいでしょう。では、どうやってお風呂に入りますかってみんなに聞くと、シャワーにするとか、体を拭くだけにするとか・・・、それはまったく豊かじゃないし、ワクワクしません。

● 我慢を強いています。

我慢でしょ。それはフォアキャストなんです。環境と豊かさを天秤に掛けて、環境が厳しくなると豊かさも我慢する。でも、やっぱり毎日お風呂に入りたい。すると、水のいらないお風呂を開発する必要がある。そこまではバックキャストで考えたとして、では、水のいらないお風呂ってどうやったらできるんだろうと考えたところで、行き詰まってしまいました。

僕はもともと大学で地球物理を学んで、INAXに入社して無機材料科学の勉強をしました。これらの学問は、産業革命以降に発達し、250年程の歴史がありますが、すべて地下資源・エネルギーを基盤とした学問で僕の知識はそこにしかありませんでした。結局6ヶ月考えましたが、持っている知識では答えは出てきませんでした。そこで、もう一度、ゼロから考え直そうと。

● そこで、ネイチャー・テクノロジーの考え方に行き着くわけですね。

地球ができて46億年、生命が誕生して38億年。今、この地球で唯一、持続可能な社会を創っているのは自然だけなんです、ほかにはないんですよ。であれば、唯一、持続可能な社会を作っている、自然のなかに答えを探しに行こうと。虫や動物、鳥たちが、どうやってお風呂に入っているのかということです。鳥は砂風呂、ブタやゾウは泥風呂、キツツキはアリ風呂とか、そうやって、自然界を見ていくわけです。

そうして行き着いたのが泡でした。泡は断熱性を持っているため、泡をまとうことによってサナギが寒いときでも生きていけるようにアワフキムシという虫がいたり、ベタという魚は泡を自分で作って水の上に浮かべ、それに産卵したりする。そうすると、泡がレンズのようになって、卵がより温まる。さらに、泡の表面張力で、卵を置くだけでピタッと付いてしまう。

また、滝つぼ付近に動物や魚が集まるのは、泡がはじけてマイナスイオンが出るためです。そうであれば、70℃位に温めた泡を浴槽に入れば、体が温まり、泡が弾けることで超音波が出て体の汚れは取れる。取れた汚れは泡の表面に付いて戻らないのではと考えました。

●泡だけのお風呂であれば、当然ながら、水の量も少なくて済みます。

普通にお風呂であれば3l、車いすのまま入れるお風呂も8lの水で実現できました。

●具体的な商品化はされたのですか?

僕は、普通の人たちが、水やエネルギーをできるだけ使わなくても済むようなものとして商品化したかったのですが、虫に倣うなどイメージが壊れるということで会社と意見が合わず、商品化できませんでした。ただ、会社を辞めた後で、ラグジュアリー層を狙った高級浴槽として商品化されたようです(笑)。

● バックキャスティング思考の本を読んでいると、「心の豊かさ」というキーワードが数多く登場します。石田先生が考える「心の豊かさ」を教えてください。

心豊かであるっていうのは、多くの企業が接頭語のように使っています。心豊かな・・・何とか・・・というように。しかし、みんなが勝手に豊かさを定義をしています。ある企業は心豊かにって言いながら、物質的な豊かさしか提供していません。

そもそもバックキャストは、厳しい制約のなかでも我慢ではなくて、ワクワク、ドキドキ、豊かであるということを生み出す思考です。では、物質的なものが主役にならないワクワク、ドキドキする豊かさとは何か、その構造を2012年12月に、世界で初めて発信をしました。「心豊か」であるという構造です。

● 具体的な豊かさの構造を教えていただけますか?

ちょっとした不自由さ、不便さを、自分の知恵や知識、技で越えていく。そうすると、達成感や充実感、愛着感が生まれ、心豊かになるということが明らかになりました。そのちょっとした不自由さや不便さを埋める要素は何かというのも、およそ14ほどの要素があることが分かっています。つまり、心豊かであるっていうことの論理的な構造は、理解ができつつあります。

● 14の主な要素を挙げていただけますか?

日本文化を作った要素は、全部で44個位あるんです。90歳ヒアリングと呼んでいる研究成果ですが、戦前に成人になって、1960年代の高度経済成長を経験した人たち、つまり、ちょっとした不自由さ、不便さを越えてきた600人以上にインタビューをして、1,720万の文字におこして、統計的な処理を行いました。

まだ6割位しか終わっていませんが、ちょっと強引に集約すると、日本の生活文化というのは、44個位の要素から生まれています。そのなかの、たとえば「自然と寄り添って暮らす、自然を生かす暮らし方」、あるいは「お金を使わない付き合い方」、ほかにも「ちょっといい話」とかそういった要素が14個くらいあって、その要素がちょっとした不自由さ、不便さを越えていく。僕は「間を埋める」って言っていますが、そこの要素になります。

● 今後のライフスタイルを占ううえでも面白いですね。

なぜ、今DIYがブームなのか。それは未来への予兆と言えます。安い棚が簡単に買えるのに、日曜大工で作る。それはちょっとした不自由さ、不便さを乗り越えているわけです。

● そうした要素は、マーケティングに使えそうですね。

マーケティングそのものです。以前にある会社と打合せをしましたが、その企業のマーケティング調査は、結局、今、何が欲しいか?のようなことしか聞いていないことが分かりました。今の若者に何が欲しいって聞いても、モノが飽和して、特に欲しいモノはないんです。そういう人たちに何が欲しいって聞いたら、ほんの5分前に何かを見て、あんなものもあったらいいなと思ったものや、誰かと話をしたときに興味を持ったものを答えるでしょう。

非常に薄っぺらなものを回答することになります。なぜそれが欲しいのか、それを手に入れるにはどうするか、といったことを聞けば、まったく違う答えが出てくるでしょう。

しかし、何が欲しいか?としか聞かない企業のマーケティング調査の結果は、今の若者は多様性を求めているという結果になります。僕たちの場合はきちんとヒアリングをして調査を行いますが、そうすると、自然とか、楽しみ、社会と一体になりたい等のまったく異なる要素が出てきます。

マーケティング革命とは言い過ぎですが、これまで感覚的でやっていたことが、こうした考え方で整理できます。新しい商材を先程の14の構成要素で見れば、社会が求めているものかどうかが大まかには分かります。

● 今後、私たち日本人は、心豊かな社会を目指すために、どうすればいいでしょう?

日本人としてというよりも、先程言ったように、日本はこの30年間、完全に周回遅れの状態になっています。しかし、可能性がないとは思っていません。たとえば震災のときには世界が驚くほど、多くの人が絆やコミュニティをつくりました。そういったものを日本人は本質的に持っているわけです。

しかし、今までのコミュニティは、物質的な豊かさを求めるための派二次的な形としてのものなんです。震災が起きて、物質的に貧しくなったときに、そうしたコミュニティが形成される。ところが、物質的に豊かになったときには、そのコミュニティの概念を作り直す必要があるのに、それが今できていません。

物質的に豊かになり、飽和した状態での新しい価値観は何かと言えば、効率性や機能面等の従来の視点に加えて、温かみ等の違う概念が入ってくる。そうすると、これまでどちらかと言えばネガティブだった介護の仕事や、人と関わるサービス業が主役になる時代に恐らく変わってくるでしょう。

しかし、そこには物質がないわけではありません。引き金は物質でも、コミュニティに震災時の絆のような概念はあるとして、ビジネスそのものがコミュニティになる。そういう引き金を作るのは、日本人は得意でしょう。物質が真ん中にあったとしても、それが引き金となって、新しいコミュニティをつくっていくアプローチをする必要がある、そう思っています。

● 私たちビジネス・パーソンに求められることは何ですか?

国も経済成長も右肩上がりの成長は望めないということが前提にあります。しかし、経済的な発展を否定しているわけではありません。そうしたなかで、社会構造を変えていく必要があります。

都会は経済的には豊かですが、東京の食料自給率は、1%未満です。要するに、何か問題があったら暮らしていけないわけです。そう考えると、やっぱり地方がもっと豊かになって、たくさん食料を作って、東京に送る必要がありますが、それさえもできておらず、海外から多くの食料を輸入しています。

つまり、最初のステップは地方が豊かになって、地方が自立をすることが必要になります。そして、その自立過程や文化は、必ずそのエリアの自然に影響されます。海の近い所だったら海をベースにして文化ができて自立している。山だったら山のもの、東北だったら雪や過酷な自然等、個性がすべて異なります。
地域の自然や文化を活かして、自立して、地域ごとに緩やかに繋がっていく。そして、その地域だけで何となく生きていける、そういう時代になることが求められます。

そうなると、交通システムも、日本全国に新幹線通す必要はなくなるだろうと・・・バックキャストですよ。そうした未来を描くために、今、どうするかという思考が必要なのに、いまだに経済成長を前提に、何が求められているのかも考えず、従来の延長の利便性を煽るモノをたくさんつくってたくさん売ることしか考えていない、僕に言わせれば、逆を向いて走っているということです。

● 地方の自立が重要ということですが、日本全体が超少子高齢化で人口減社会になっています。そうしたなかで、地方の自立は、ますます厳しくなっています。

人口が少なくなって、地方の自治体は人口を増やそうとする努力をする。日本全体で人口が減るのに、おらが町だけ増やそうと競争する。そのために何をすると言ったらお金です。ここに移住したらお金を出します。企業が来たら税金を優遇する。みんなお金がなくて人も減るのに、なんておかしなことをしているのか、これがフォアキャストです。バックキャストの思考回路は、人口減っても、笑顔が溢れる町にしようというステップを踏む必要があります。

ちなみに、沖永良部島の食料自給率は、10%しかありません。エネルギー自給率も6.5%、平均年収は一世帯180万円程度です。そして、色々なものを外から入れて、多くのお金を外に捨てているわけです。

● 地方の離島は、国の補助金も多そうです。

補助金漬けです。貰えるものは貰えばいいと思いますが、もう少し使い方を変えよう、つまり島の中でお金を回すということです。食料自給率は10%でも、実は島のお年寄りは皆が野菜を作っています。でも、流通の範囲が半径300m以下で、多くの野菜が食べられずに処分されています、

普段買う野菜は、スーパーマーケットに完全に依存している人が多いのが実態ですが、地元の農家と住民をつなぐだけで、食料自給率は、50%位まで簡単に達成できるでしょう。そうした状況で、地元で作った野菜をその地域で売る会社を作れば、雇用が生まれるし、お金も回るでしょう。

● 最近は沖永良部島に大学もできました。

教室が1つあるだけですが、文科省認可の4年制の大学で、卒業までの学費も110万円ほどで済みます。星槎大学にバックアップしていただき、島のリーダーを育成することが目的です。昨年は大学院もつくりました。

そうやって色々なものが自立することにより、お金が島の中で回り、雇用も増えるはずです。現在の出生率は2.1あります。だから未来に夢はある。そんな繰り返しが、きっと憧れの島をつくり、お金など積まなくとも、みんなが集まるのだと思っています。

● 人が減って疲弊する自治体が増えるなかで素晴らしい成果です。

人に来てもらうための政策ではなく、できるものから少しでもいい、自立して生きていく。そうすれば、雇用が生まれ、お金は外に流れず島を廻り、笑顔も生まれ、憧れの島になる。そうすると、結果として人がやって来るかもしれない。そういうアプローチをすればいいんです。

こうしたこれまでの島の活動過程は、「ローカルが豊かになる教科書」として取りまとめています。今、まちおこしの本を読むと、誰かが一生懸命頑張ったという話ばかりです。そうではなくて、地域の文化を正確にとらえ、何を考え、バックキャストで方向を定め、具体的にどのようにアプローチするのか、つまり、論理的なアプローチをするための手法を纏めれば、どの地域でも使える教科書ができるのではと思っています。

● 町おこしは、再現性が無ければ意味がありませんので、とても素晴らしい試みです。

そうした地域に大企業が進出すればいいんです。これからは、大企業も目的が多様化して、大きな屋根の下に小さな会社が分散するような組織になるでしょう。自動車メーカーはクルマをつくるのも、クルマを通して人とのコミュニティをつくるのも、そしてコミュニティをさらに豊かにするのも仕事だとすると、派生する様々なビジネスが生まれます。

大企業は屋根さえしっかり作って、その大きな屋根の下で多彩な仕事を通して皆がつながって、これがまた自立分散的な会社になっていく。そうした会社が色々な地方に行って、実験を重ねながら、それを論理的に組み立てていくことをすべきです。1つのビジネスで何百億も売上を上げる時代ではないということを理解すべきです。

● 最後に、SDGsのゴールの年である2030年向けて、私たちへのアドバイスをお願いします。

地球環境が劣化し、生活にも直接大きな影響がおよぶのが2030年頃です。同時に、資本主義が悪いわけではありませんが、今の金融資本主義やグローバル資本主義と言われる新自由主義、それはすでに限界状態にあり、次の新しい価値観への転換が求められるでしょう。環境と経済、両方の限界が同時に来る、大変な時期になります。その2つの限界に対して、同時に対応できる解を早く出さないと、今の文明に大きな問題が起こるかも知れません。

それまでに必要なことは、私たちの暮らし方そのものを変えていくこと。それは我慢ではなくて、1つの地球でワクワク、ドキドキ、心豊かに暮らすということ。企業も行政も教育も、それに向かって、ソリューションを出していく必要があります。そのために、SDGsは大事なものさしです。このものさしを使って、とにかく1つの地球で暮らすということに解を出す。それができなければ、次の世代に手渡すバトンはないと思っています。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月メンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長、2022年度からは、アースデイジャパンネットワークの共同代表を務める。

※この記事の情報は2019年08月19日メンバーズコラム掲載当時のものです

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