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「SDGs未来都市が目指す地域社会」 壱岐市:Social Good Company 自治体編 #27

※この記事の情報は2019年02月01日メンバーズコラム掲載当時のものです

古事記や魏志倭人伝にも記され、260以上の遺跡や神道発祥の神社を有するパワースポットの宝庫 長崎県壱岐市。新鮮な海の幸のほか、米やイチゴ、アスパラガス等、地元ブランドの肉用牛の産地であり、麦焼酎発祥の土地としても知られています。

今回は、2018年にSDGs未来都市にも選定され、未来に向けた新しいまちづくりを目指す壱岐市長にインタビューの機会をいただきました。

  • SDGsの理念同様、島民すべてが生き生きと暮らせるまちづくりを目指して

  • 市長の強いリーダーシップによる光ファイバー網の整備や再生可能エネルギーの推進

  • AIやIoT等、最新のICTの実装により魅力なまちづくりを行う

<インタビューにご協力いただいた方>
壱岐市長 白川 博一 さま

● 今回、壱岐市さんでは、全国10の地域のなかのSDGs未来都市・モデル事業の1つに選定されています。エントリーしたきっかけから教えていただけますか?

2015年に国連でSDGsが採択されていますが、私や職員も含めて、壱岐市内でこうした情報が共有され認知されていたかと言えば、低かったと言わざるを得ませんでした。

以前、私は全国離島振興協議会の会長に就任し、現在は顧問を務めていますが、その会長就任当時の専務理事に元国土交通省の国土政策局長の方に就任をしていただきました。

SDGsを知ることになったのは、その専務理事から、2017年末から年明けに掛けての情報提供がきっかけだったかと思います。壱岐市でもSDGsの目標達成に向けた取り組みを何かできないかと考え、担当部署にも指示を出していました。また、同時にSDGs未来都市の募集時期が2018年2月にあり、エントリーしたのがきっかけと言えます。

● 市長の強いリーダーシップにより進められているのが理解できました。

SDGsは、2030年の未来を見据え作られているものですが、壱岐市に置き換えてもまったく同じことが言えるだろうと考えました。壱岐市としてSDGsへの取り組みを考えるうえでは、私から全職員に壱岐市で解決すべきことは何かの提案を募ることも行いました。

壱岐市のSDGs未来都市の概要は、職員自らが考えた想いやアイデアがその骨子となっています。

● トップダウンによる指示と併せて、全職員一人ひとりの考えに基づいて作られているわけですね。

内閣府のエントリーの際には各自治体へのヒアリングも実施されましたが、審議の際は自ら私も参加しました。その審査中、審査員とのやりとりで印象に残っていることがあります。

「壱岐市として、SDGs未来都市に選定されなかったらどうするのか?」という質問がありました。私は、「この内容は、全職員が考えたものを取りまとめたものです。採択・不採択に関わらず、壱岐市として政策の柱にしていきます」と申し上げました。

審査結果後の講評が公開されましたが、そうした市としてのスタンスが評価されたようです。

● こうした国の採択となると、採択されることが目的となっていた自治体もあったはずですが、その目的はブレていなかったということですね。壱岐市としてSDGsに取り組もうと思われた最大のポイントは何ですか?

SDGsには、「誰一人取り残さない」という理念がありますが、その理念に共感しましたし、私自身とてもインパクトがありました。

また、私たちはこれまで、市の政策を進めるうえで必ず計画を立て、その計画を達成するために様々な努力をします。しかし、今回のSDGsへの取り組みは、バックキャスティングの考え方で、未来の目標を決めたうえで、その目標を達成するためにどうすれば良いかということを徹底的に考えました。

これまでの計画を立案しその計画に沿って進めるやり方では、計画がうまく進まなかったときに、できない理由や言い訳を探すことになってしまいます。しかし、バックキャスティングで考えることにより、あるべき姿を計画ではなく、高い目標として掲げ、一人ひとりが達成すべきこととして捉えることができましたし、SDGsに向き合うことによって、そうした意識を変えることにも繋がったかと思います。

出典:内閣府地方創生推進事務局 Webサイトより

● 国内の民間企業も、海外の企業と比べると野心的な高い目標を掲げる企業は少ないと言われていますが、地方自治体が率先して進めているのは興味深い取り組みです。今回のSDGs未来都市で示されている、壱岐市の2030年のあるべき姿では、先進のITを活用したスマート社会の色合いを強く感じました。

長崎県壱岐市 SDGs未来都市計画

壱岐市の計画には就業者の高齢化や後継者不足が課題として明記されていますが、実は、AIやIoTを使うことによって、若者にも魅力的なまちとしてアピールすることが重要であると考えています。

3Kと言われる就労現場でも、最新技術を取り入れることによって、働き方も変え魅力的な職場環境にしていくことが重要です。課題に対する対処療法ではなく、魅力度アップの計画であると考えています。

● 計画には、経団連も積極的に進めている、Society5.0のキーワードも含まれています。

様々な未来が提案されていますが、その未来を実現するのは人間しかいないという考え方です。SDGsの考え方や目標設定には夢があります。でもそれを実現しイノベーションを起こすのは、人間であり、私たちです。

SDGsの達成という夢のある目標に向かってがむしゃらに進んでいきたいと思います。

● 以前は職員のなかでもSDGsへの認知が低かったとのことでしたが、未来都市に採択され、変化はありましたか?

その辺りはまさにこれからだと思います。職員一人ひとりの理解を深めることも重要ですが、議員もその重要性を理解する必要があります。議員の方々へも自ら説明をしていますが、壱岐市で取り組むには壮大で大げさな目標と捉えた議員もいるでしょう。でも私たちはこの未来都市計画を進めていく、今やらなければ壱岐自体も危ういことを説明しています。

AIやIoTを活用した農業や、島内での自動運転等の話をしても、夢物語としてまだまだ理解されないことが多いのは確かです。しかし、自動車メーカーからは自動運転に関する問合せをいただいたり、地元で獲れる野菜も新しい活用方法に関して検討を開始しています。

SDGs未来都市採択をきっかけに、色々な方々とのご縁を頂き、ネットワークも拡がっていますし、様々なことに挑戦できていることが、最大の効果であると考えています。今後は職員や議員の意識も変わっていくと思います。

● 離島という限定された地域が武器となって、自動運転等の実証実験の場としては最適な場所であるように思えます。

自動者メーカーからも、離島をわかりやすい限定エリアとして特定できることに興味を持っていただいているようです。また島全体がなだらかな土地であるという特性があります。2017年には、一晩で400ミリの大雨を記録し、小さなものまで含めると1,500箇所の土砂崩れがありましたが、それによる二次災害や人災はまったくありませんでした。

また、島全体が散村で、農村のエリアも島全体に拡がっているために、139km²の島内に、延べ1,400kmもの道路があります。だからこそ小学校近くの道路で土砂災害があり、通行止めになった際も、分断されても孤立するようなことはありませんでした。そうした道路事情も自動運転の実証実験エリアとして興味を持っていただいているかと思います。

● 壱岐市さんでは、SDGs未来都市として、2030年のあるべき姿の1つに、再生可能エネルギーや蓄電を促進することを掲げています。また、本土との系統連系がされていないことも知りました。離島での再エネ促進ということでは、電力自給率700%とも言われる、デンマークのロラン島が思い浮かびましたが、今後は、再エネ分野で、世界に誇るベストプラクティスを目指していただきたいと思います。

壱岐市は、年間を通して太陽の恵みが豊富で風が強い地域となります。太陽光や風力発電には非常に適した地域であると思います。島内には、2MWのメガソーラー発電所や2基の風力発電に加え、4MWの蓄電池も備えています。既存の火力発電所は2箇所ありますが、再エネの発電は、既存の電力に影響を与えてしまうため、余った電力をうまく活かせていません。

● ロラン島での視察のポイントは何ですか?

世界に誇る環境先進国としての政策や啓蒙活動、再エネ発電の取り組みや、余剰電力の島外への送電や売電の仕組み等を学びたいと思います。

余剰電力を有効に活用するということでは、水素に変えて蓄電する取り組みも検討しています。現在は技術も進み、変えた水素はカートリッジに吸着させて安全に運ぶことも可能になっています。近い将来は、家庭や車のエネルギー源として、水素もその選択肢の1つとなるでしょう。

また、先程もお伝えしましたように、島内には1,400kmもの道路があります。地域によっては、木に覆われ道路が通れなくなるため、自治会単位での定期的な整備も必要となりますが、高齢化等も影響でそれら取り組みも厳しくなっています。そうした雑木を道路の整備と併せて自治体として集め、木質バイオマスの燃料にしようという計画も進めようとしています。

● 電力や風力、木質バイオマスや水素発電までを視野に入れて、計画・実行に移されているのは先進的です。地域の資源ということでは、麦焼酎の発祥の地である壱岐市さんらしい、焼酎かすの資源再生化も計画されています。

新しい技術を取り入れ先進的な取り組みを進めることはもちろんですが、今ある余剰電力や道路整備を通して捨てられる雑木を活かして新しいエネルギー活用へ転換しようと思います。

これまでは、道路整備で出た木材はお金を払って廃棄をしていましたが、そうしたもともとある地域の資源を活かしていきたいと思います。バイオマス発電のために新たに木材を求めたり、植物プラントを作ることは本末転倒で採算も合わないでしょう。壱岐市では、木質バイオマス発電のためのボイラー選定も始まっています。

壱岐市 テレワークセンター

● 最後に、SDGsでは、2030年がその目標達成の期限として定められています。市長が目指す2030年の壱岐市の将来像を教えてください。

全ての老若男女が生き生きと暮らせることです。

壱岐市の人口減をなんとか止めたいと思います。壱岐市は非常に教育熱心で、大学進学率も高い地域です。しかし、島内に大学はありませんから、高校を卒業すると子供たちは島を出てしまいます。今後は出身者が島に戻って人が定着するよう、先程の新しい技術の活用や再エネを通して、島の魅力度を高めていきたいと思います。

また、平成21年頃、国内の光ファイバー通信の普及率は4割程度でしたが、その当時から島の全事業所、全家庭への光ファイバー網の整備を実現しています。そうしたインフラ整備は、テレワーク、リモートワークの実現に繋がります。逆参勤交代といった、東京等の大都市の企業が地方に進出したり、都市と地域が交流できる社会をつくりたいと思います。

これまでのこうしたインフラ整備があったからこそ、企業誘致やテレワークセンター運営の施策が積極的にできているのだと思います。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月メンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長、2022年度からは、アースデイジャパンネットワークの共同代表を務める。

※この記事の情報は2019年02月01日メンバーズコラム掲載当時のものです

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