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「選ばれるブランドになるには、サステナビリティへの対応は不可欠である」 ソニー:Social Good Company #51

※この記事の情報は2020年11月09日メンバーズコラム掲載当時のものです

最近では、米国の経済誌により持続可能な経営企業100社の首位にランキングされた、日本を代表するグローバル企業 ソニー。気候変動対応や再生可能エネルギー導入の取り組みを中心にインタビューの機会をいただきました。

  • 2040年 再生可能エネルギー100%と、2050年 環境負荷ゼロを目標に掲げる

  • エンタテインメントの力で消費者のマインドチェンジを図る

  • 自社の取り組みや目標を共有し、脱炭素社会移行への一端を担う

<インタビューにご協力いただいた方々>
● 
ソニー株式会社 サステナビリティ推進部
環境グループ ゼネラルマネジャー
志賀 啓子 さま(写真中央)
● ソニーピープルソリューションズ株式会社 HQ総務部
EHSグループ シニアマネジャー
井上 哲 さま(右)
● Sony Innovation Fund チーフインベストメントマネジャー
Innovation Growth Ventures 株式会社 代表取締役社長 
チーフインベストメントオフィサー 
土川 元 さま(左)
<プロフィール>
● 
志賀 啓子 さま
カリフォルニア大学サンディエゴ校工学部卒業後、1992年ソニーに入社し、信頼性試験開発に従事。2007年より環境マネジメントシステム管理や環境情報開示業務などを経て、20年より現職。
● 井上 哲 さま
2000年慶応義塾大学 理工学研究科(修士)卒業後、ソニー入社。08年HEC経営大学院(フランス)にてMBA取得。入社後、知的財産関係の部門、環境関連の部門に在籍し、14~17年までソニーモバイルコミュニケーションズに在籍した後、17年より現職。
● 土川 元 さま
1984年一橋大学法学部卒業後、日本興業銀行入行。88年スタンフォード大学にてMBA取得。メリルリンチを経て、2004年ソニーに入社。08年IR部門長、11年M&A部門長兼ビジネスデベロップメント部門長、14年ソニーモバイルコミュニケーションズCSO、16年Sony Innovation Fund(ソニーCVC)投資・運営責任者などを経て、19年より現職。

● 2050年までに環境負荷をゼロにすることを目標に掲げ、2020年9月その中期目標である「Green Management 2025」を発表しています。

私たちは、2050年の「環境負荷ゼロ」を達成するため、2010年からRoad to Zeroという環境計画を進めています。これは、世界的な環境課題である、気候変動・資源・化学物質・生物多様性という4つの視点を持っています。この4つの視点に、商品企画/設計・オペレーション・サプライチェーン・物流・回収/リサイクル・イノベーション、つまり製品や事業の6つのライフサイクルを掛け合わせて目標を立てています。

Road to Zeroは2050年までの長期的な計画ですが、具体的には5年ごとにあるべき姿を2050年からバックキャスティングして環境中期目標をたてています。このたび、さらにゼロへと近づくために、ソニーは、2025年度を達成年とする環境中期目標「Green Management 2025」を掲げました。

ソニーWebサイトより

● 気候変動対策としても、日本企業として早くからRE100に加盟し、2040年までに再エネ100%という目標を掲げています。こうした目標を掲げる背景を教えていただけますか?

気候変動は世界的な課題であり、誰1人その問題に無関係な人はいないと考えています。また、弊社はエレクトロニクスの会社として創業し、エネルギーを使う製品をつくっています。つまり、エネルギー問題は、気候変動問題につながりますが、そうした課題に対しても積極的にソリューションを考えていく、そして私たち自身のオペレーションを正していく、こうしたことは社会的責任として重要であると考えています。

また、今回の中期目標では、海洋プラスチック汚染問題にも貢献したいと思っています。製品のプラスチック使用量の削減や、2025年度までに新たに設計する小型製品のプラスチック包装材の全廃を目指しています。プラスチックの梱包材を必要としない包装設計にしたり、紙を利用した素材開発を計画したりしています。

● 再エネ100%に向けた取り組みに関して、現在の進捗状況を教えていただけますか?

以前と比べて、太陽光パネルの単価は下がってきています。しかし、太陽光パネルで発電する電力には限りがあります。そうしたなか、ソニーで使用する電力は、現在約22億kWhとなりますが、現在の再エネ電力の比率は5%程度となっています。

全体の電力の約8割を国内で使用していますので、国内の再エネ移行が1番大きな課題となっています。実は、ヨーロッパでは2008年度、中国も今年度中(2020年度)に再エネ100%を達成する見込みです。太陽光パネルを設置している事業所もありますが、それだけでは再エネ100%を達成することは難しいため、グリーン電力証書も購入しています。

● 今後の再エネ調達の手法として、ブロックチェーンによる調達も計画しています。

2018年に、電力の売買を行うプラットフォームを提供する、デジタルグリッド社に出資をしています。現在の証書に変わる手法として、ブロックチェーンの技術を活用することで、効率的に環境価値ある電力を調達できればとても価値があることと考えています。

● 再エネを進めるうえでの国内の課題はどのようなことが挙げられますか?

日本政府としては、2030年に再エネ24%の目標を掲げています。しかし、海外と比べると低い目標であると思いますし、そのような目標では私たちが調達できる再エネにも限りがあります。ブロックチェーンの技術によるバーチャルな電力でも調達量を増やしていくことが私たちの責務であると考えています。

自助努力も当然必要ですが、RE100の参加企業と一緒に再エネを増やす取り組みを行うことが、今後重要になります。

● 再エネ100%を1社だけの取り組みで達成することは、とてもハードルが高いと多くの企業の方々が言及しています。そうしたことからもRE100やJCLPのような企業によるイニシアティブ存在はとても重要です。一方で、新型コロナウイルスの影響により、ポジティブな影響とはいえませんが、エネルギーの使用量やCO2の排出量は減っています。

その辺りは、グリーン・リカバリーとして、ヨーロッパが先行しています。再エネの積極的な導入など、日本も政府が率先して先導して欲しいと思いますし、私たちも訴えていきたいと思います。

● 再エネを積極的に進めていることにより、ビジネスの側面から、メリットや優位性を感じることはありますか?

サプライヤーの立場では、再エネを進めていかないとスタート台にも立てないということも起りえると思っています。納入先からそうしたことを求められることもありますし、すでにそうしたことが現実となっています。

一方で、一般消費者の意識は、そこまでには至っていません。たとえば、再エネ100%の工場で作られた製品であっても、それに興味を示す人は多くはないでしょうし、そうした取り組みにより、価格が上がることも理解を得られないでしょう。しかし、再エネを求めるカルチャーが社会に拡がるように、一般消費者のマインドチェンジを進めていくことが必要だと思っています。

● そうした一般消費者へのプロモーションやコミュニケーションはどのように考えていますか?

私たちは、エレクトロニクスの会社として創業していますが、現在では、エンタテインメント企業の側面も持っています。実は、先ほどの中期目標のなかでも、エンタテインメントにより、環境や持続可能性の課題を皆さんにお伝えしていこうという目標を持っています。

これまでの取り組みとして、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントというグループ企業は、世界中で人気を博した自社のアニメーション映画『アングリーバード2』のキャラクターを活用し、気候変動対策をグローバルに呼びかける国連のキャンペーン「ACTNow Climate Campaign(アクトナウ・クライメート・キャンペーン)」を支援しました。一般の方々にも、気候変動に対する認識を高め、節電や自転車に乗るというような誰にでもできる気候変動対策アクションを進める啓発活動をしています。エンタテインメントの力で、楽しんで環境に関する知識を増やしたり、アクションができるようになればと考えています。

また、国連環境計画(以下、UNEP)のひとつとして、プレイステーション®ヴィーアールを活用して、自動車が排出するCO2量の大きさを理解するという、ゲームの力で環境への意識を高める取り組みを行っています。ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、ゲームのハードウェア、ソフトウェア両方を持っていますので、そうした側面からも環境活動を進めていきたいと思っています。

● 国連やUNEPとのタイアップは、グローバルでの取り組みとなりますが、お客さまの反応はいかがですか?

環境に対して非常に関心の高い欧州の国々に加え、とても良い感触を得られたのは中国でした。環境への意識ということでは、中国は若者層を中心にその意識がとても高まっています。ほかの国においても、グレタ・トゥーンベリさんのような環境のアクティビストも増えていますし、気候変動マーチに参加している若者も世界各地で増えています。気候変動問題を自分の将来のことと捉え、自分事化していると感じています。

そうしたことからも、こうした問題を楽しいコンテンツでと伝えていくことは重要です。こうした課題に対して、企業自らが積極的に語らないと、特に若い世代からは支持が得られないと感じています。

● 気候変動マーチでも欧米の国々と比べると日本の参加者は少なく、気候変動への関心もあまり高くないように感じていますが、国内の反応はいかがですか。

海外との比較を整理できてはいませんが、残念ながら、手応えを感じることはあまりありません。しかし、若者層を中心に、日本もきっと変わっていくと思っています。

● 製品を通した気候変動のコミュニケーションやプロモーションの取り組みに関してはいかがですか?

最近、Webサイトを刷新し、エレクトロニクス製品に限らず、様々な商品やサービスの環境配慮を紹介しています。気候変動対応に対して、お客さまに最も伝わるのは、その商品が省エネであるかどうかということになります。製品そのものの性能に加え、環境性能を伝えていきたいと思います。

● こうした取り組みは、社内ではどのように受け止められていますか。

これまで、全社的な意識醸成に環境部門として苦労してきました。しかし、現在の社長は、「選ばれるブランドになるには、サステナビリティへの対応は不可欠」と言う強い信念を持っています。そうした社長の呼びかけもあり、現在は全社的にサステナビリティへの取り組みを積極的に進めようという気運に変わっています。

● そうした信念を社長が持たれているきっかけ等があれば教えていただけますか。

社員との対話がきっかけの1つだと聞いています。小さなお子さまをお持ちの方から、出産を機に社会や環境に対する意識が大きく変わったという話を聞いたのが気づきの1つだったようで、若い世代の方々や自分より社会や環境について長期視点を持っていると実感したそうです。

また、社長就任の際に公開したブログが今でも印象に残っています。「地球の中のソニー」がブログのテーマでした。「ソニーは地球に存在しているため、地球なしにソニーは存在できない。だから、地球環境に配慮した企業活動は必然」という内容でした。

また、ダボス会議のような場で、世界中の経営者と共に、気候変動や環境対応にも取り組んでいます。グローバル企業でそうしたテーマを語らないリーダーはいませんので、当然のことなのでしょう。

● 最近では、新しい環境技術を保有する企業を育成する取り組みとして、自らがベンチャーキャピタルの役割を果たす、Sony Innovation Fund: Environmentを創設しています。

Sony Innovation Fundは、2016年7月に創設され、すでに60件以上の投資を実行してきました。AIやロボティクスの分野で多くの投資をしていますが、昨今は、デジタルヘルスやフィンテック、デジタルアイデンティティの分野なども重視しています。

今回創設した環境分野に特化したファンドは、気候変動、資源、化学物質、生物多様性の改善などに貢献する技術開発に取り組む企業を対象として進めていきます。具体的な投資はこれからですが、すでに多くのお問い合わせをいただいています。

これまでも、Making The World Better Placeという信念を持った企業に投資をしてきましたので、環境分野でも同様に取り組んでいきます。そして、経営にとって環境への取り組みが重要であることは、グローバルに認識されています。私たちのような、コーポレート・ベンチャーキャピタルに取り組む会社は他社とのネットワークも持っていますので、お互いに意見交換をしながら進めています。投資先や有識者の方々と接点を増やしていくことが重要ですし、多くの案件を検討し、私たち自身の知見も高めながら活動を推進していきたいと考えています。

● 環境技術の観点から、注目すべきキーワードがあれば教えてください。

私たちの代表的な案件として、ブルキナファソの砂漠を農地に変えた取り組みがありますが、アグリテックの分野は重視しています。環境分野には様々な技術がありますが、気候変動に関連することでは、カーボンキャプチャが最も注目されるキーワードと言えるでしょう。カーボンゼロを達成するには不可欠な技術と考えています。

ESG投資により、お金の流れも変わりました。社会的な課題を解決することは、CSV経営であり、それによってお金が流れていることに皆さんが気付きはじめていると考えています。

● 最後に、将来の脱炭素社会に向けて、メッセージをお願いします。

ソニーでは、2040年に再エネ100%の目標を掲げています。その時期にこの目標を達成することは、再エネの供給量が増えている社会、つまり国内の6割程度は再エネに移行する社会となっているでしょう。

現在、国内の年間CO2排出量は12億トンと言われています。電力によるCO2排出を減らすためには、再エネを増やすことが必要です。最近では、再エネ電源接続の優先や石炭火力発電の縮小など、エネルギー分野で大きな動きもありました。

私たちも、脱炭素社会に向け、目標を掲げ取り組んでいきますが、私たちの取り組みや目標を広く共有することによって社会全体がCO2排出削減に進んでいく、その一端を担うことができればと考えています。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月メンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長、2022年度からは、アースデイジャパンネットワークの共同代表を務める。

※この記事の情報は2020年11月09日メンバーズコラム掲載当時のものです

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