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「水と共に生き、気候変動に立ち向かう」サントリー:Social Good Company #48

※この記事の情報は2020年10月01日メンバーズコラム掲載当時のものです

中長期経営計画のなかに意欲的な環境課題解決目標を盛り込み、2050年までにCO2排出ゼロを目指すサントリー。1970年代からいち早く環境課題に取り組んできたサントリーホールディングスのおふたりに、現在のお取り組み内容をうかがいました。

  • サステナブル経営のベースは、1997年策定の方針と創業から続く利益三分主義

  • 「水と生きる」を具現化した「天然水の森」活動で強靭かつ持続可能な森林を実現

  • 水・プラスチック・CO2を主軸にした意欲的な環境課題への取り組み

<インタビューにご協力いただいた方々> 
● 
サントリーホールディングス株式会社 サステナビリティ推進部長 
北村暢康 さま(左)
● 同社 サステナビリティ推進部 課長 
岩瀬 充典 さま(右)
<プロフィール>
● 北村 さま
989年入社。人事、営業、マーケティング、CSR、経営企画、生産各部門での業務を経て、2019年より現職。サントリーグループの企業理念『人と自然と響きあう』の実現に向け、サステナビリティ経営の推進に取り組んでいる。
● 岩瀬 さま
専業エンジニアリング会社勤務を経て、2003年よりサントリーに入社。工場勤務や生産技術部門勤務、天然水工場建設プロジェクトに従事のほか、サントリー食品インターナショナル(株)のグローバル化において、海外グループ会社の生産SCM部門におけるPMIを担当。2020年4月より現職。

● サントリーでは、環境課題への取り組みを、早くからスタートさせています。その背景について聞かせてください。

創業者の行動規範や価値観が、今もサントリーのDNAになっています。その1つは、チャレンジスピリットです。

およそ120年も前に、東洋の人間が西洋の酒を造るという未知未踏の領域に踏み込んで、新しい価値を探し出した会社です。『やってみなはれ精神』で、目先の利益にとらわれず、長期の目線でチャレンジすることにエネルギーをかけることを厭わない社風が根づいています。

もう1つは、利益三分主義。頂戴した利益を、自己成長に充てる一方、お客さまや取引先に商品・サービスとして還元する、そして社会にも返し、分かち合おうという考え方です。高度経済成長期にいち早く、モノの豊かさだけでなく心の豊かさの重要性を見出し、音楽や文化芸術活動に取り組んだことはその代表例です。愛鳥キャンペーンなど、環境課題に対する取り組みを開始したのは1970年代、約50年前のことです。

根底に流れているのは、社会との共生と同時に自然との共生を目指そうという思想で、まさに利益三分主義という哲学の具現化のひとつだと、認識しています。

サントリーグループ企業情報 Webサイトより


● 中長期経営目標である「環境目標2030」「環境ビジョン2050」は、そうした歴史の延長線上にある取り組みですか?

1991年、『環境室』が設置され、自然との共生の取組みを進めていくなかで、目標をより具体化するため1997年に策定した「環境基本方針」が、現在もサステナビリティ経営のベースのひとつとなっています。

そこからスタートして「環境ビジョン2050」、そしてその手前に設定したよりリアリティのある「環境目標2030」にまでつながっているのです。

● サステナビリティ経営のなかで、特にフォーカスしている環境課題は何ですか?

水と生きる」を理念としている企業として、まずは「水」です。それから世界共通課題である「CO2」と、ペットボトルを包材として使う企業として「プラスチック」です。

SDGsの17目標の内の4つを、サントリーが取り組むべき重点領域としてとらえています。その上でバリューチェーンの目線から、前述の3テーマを含む7つの重要テーマを絞り込み、2019年6月にサステナビリティ経営のビジョンとしてまとめました。

● 「水と生きる」というコーポレート・メッセージは、サントリーの代名詞として生活者の間にも広く浸透しています。

「天然水」を含む自社商品の多くは水をベースにしたものですから、水が美味しくなければ美味しい商品はできないというところからの発想なのですが、その背景には「人と自然が響きあう」という企業理念があります。自然の恵みは商品という価値に形を変えても、人もしくは社会と接しています。

単に接しているだけに終わらせず、自然と人・社会がより良い関係を育み合うことに貢献できるような存在になりたい、との想いが込められています。「水と生きる」を具現化した活動の代表例は、水源涵養エリアの森林保護・育成と、そのエリアに所在する地域社会との共生を目指す「天然水の森」の取り組みです。

● 「天然水の森」の取り組みについて、詳しく教えてください。

水源涵養エリアにある森林にしっかりと水を蓄える力があると、良質な土壌となり豊かな生態系が維持されると同時に、結果として洪水や土砂災害に対する強靭さも備わります。近年、豪雨などによる水害が多発していることの背景には、気候変動の影響、そして気候変動を引き起こす一因ともなる森林の衰退や荒廃があるのです。つまり、森が健全さを失っているのです。

水は森林を起点に循環していますが、健康な森を目指すことによって水源も保全され、綺麗な水の循環を実現することができるのです。地下から水をくみ上げ、飲料として商品化するだけでは、水の循環はそこで止まってしまいます。

そこでサントリーでは、汲み上げた地下水量の倍以上の水を涵養する森づくりを目標に、森林の回復・維持を通した水を育み・守る活動として展開しているのです。製造工場近くにある水源涵養エリアの土地の所有者と、森を手入れする契約を交わしています。

最低でも5年、長い場合は50年、100年の設定をして、管理にも持続可能なしくみを構築しています。継続して手入れすることによって森が健康を取り戻すと、結果的に災害に対する強さも宿ってきますから、事業を通して地域の皆さんのお役に立つことも叶っているのです。実は、2020年までに約1万2,000ヘクタールの森の涵養面積を設定することを目標に設定していましたが、2019年のうちに達成させることができました。

こうした事業のために、研究者をはじめとする有識者の方々ともネットワークをつくり、社員自らが猛勉強を重ねました。そうやって人材に蓄積された知識やノウハウは、自社の大きな資産となっています。

● 「天然水の森」は、まさに「水と生きる」ことを実践した事業ですね。

「水と生きる」を軸にした取り組みとしては、ほかに教育プログラムなども展開しています。森に行って地域の子どもたちに水の循環のしくみを教えたり、あるいは森から遠い地域でしたら出張講義にも取り組んでいます。そうやって出会った子どもたちは、16年間で18万人強にものぼります。

こうした事業には、アジアでも取り組んでいます。水の大切さは万国共通ですから。水が貴重な地域や、宗教上、水が不可欠な国などもありますので、私たち自身があらためて水の価値を再認識することも少なくありません。国際的な取り組みは、様々な認証を獲得する支えにもなっています。

● プラスチックに関する取り組みも教えていただけますか?

海洋プラスチック問題がクローズアップされるようになり、ペットボトルにはマイナスのイメージがついて回っています。環境省のデータによると、日本に漂着する海洋プラスチックごみのなかで、飲料ボトルが占める割合は実は1割にも満たないのですが、それでも身近にある素材だからこそ生活者にとっては印象の強い包材ですから、啓発活動の意味は大きいと考えています。

プラスチックは食品の保存や衛生レベルの向上など、生活のなかで非常に役に立つ素材です。つまりプラスチックが悪なのではなく、正しく処分できていない人間の習慣の方に課題があるのだと認識しています。

そこでサントリーグループでは2019年初夏に、「プラスチック基本方針」を策定しました。人類にとって有用なプラスチックを貴重な資源としてとらえ、生活のなかで上手に付き合いつつ、しっかりとしたリサイクルの実現を軸に、環境を悪くさせない――まさに「人と自然と響き合う」企業理念を組み立てています。

● プラスチック企業方針は、どのように事業のなかに落とし込まれているのでしょうか?

2030年までに新規の化石由来原料の新規使用ゼロを目指し、リサイクルあるいは植物由来原料に代えることを、グローバルで実現しようとしています。そのための下支えとなる研究開発や、それにともなうバイオベンチャー企業との取り組みなども、こうした取り組みの一環です。

協働している米国のベンチャー企業とはまず、非可食の植物由来素材100%から作られるバイオペットボトルの開発を行っています。また、この技術を応用すると、実は使用済みのプラを原料にプラスチックに再資源化できるケミカルリサイクル技術にもつながることが確認されています。こうしたリサイクルに関する新技術のために、このたび新会社「アールプラス・ジャパン」を設立し、競合他社を含む日本のプラスチックのバリューチェーンに関わる12社と協働し、一所懸命に取り組んでいます。

国内では年間900万トンの使用済みプラが廃棄され、大半は熱回収と呼ばれるサーマルリサイクルによって熱利用されていますが、この技術が確立すれば、『モノからモノ』へのリサイクルが進み、プラスチックに関するサーキュラーエコノミーの実現にに貢献できます。

またケミカルリサイクルだけではなく、メカニカルリサイクルにも取り組んでいます。2011年、使用済みボトルを再生して新たなボトルを生み出す「B to B(ボトルtoボトル) メカニカルリサイクルシステム」という技術を国内飲料業界で初めて、協栄産業さまと協働で確立しました。

また、2019年、ボトル to ボトル(B to B)のメカニカルリサイクルシステムからさらに、複数の製造工程を削減する「F to Pダイレクトリサイクル技術」を協栄産業はじめ海外企業の技術を結集して世界で初めて導入しました。〔現在、国内(笠間市)に協栄産業様の工場が稼働中〕これは、リサイクル工程の短縮化によってCO2の削減等も図ろうとするところに意義があると考えています。

● 長期目標として、「環境ビジョン2050」を2020年6月に改訂しています。

これは近年の気候危機を踏まえ、2050年までにCO2排出量ゼロを目指すという、意欲的な目標です。自社だけでなく、サプライヤーも含めたバリューチェーン全体でどうCO2排出量を削減していくのか、そうした目線からも多角的に考えています。

その実現のために、まずは今ここの足元からCO2を削減するというところでは、太陽光発電や、貯蔵されている冷熱エネルギーなど、自然エネルギーをうまく使っていくことに取り組んでいます。

サントリーグループ企業情報 Webサイトより

● サントリーは、そうした取り組みを知らない生活者にまで、環境ブランドとして広く認知されています。社内での環境に関する意識醸成はいかがですか?

年に1度の社員意識調査の結果から、企業理念や「水と生きる」というコーポレート・メッセージに対する社員の理解は高いと感じています。テレビ・コマーシャルなどを通してお客さまにもきちんと伝えていること、そして、企業理念を実感できる商品が存在していることは、強みだと思います。

また社員には、たとえば水源涵養エリアの森林の間伐作業など、実践の活動を通して、率先して環境に向き合う行動の機会を提供する仕組みも設けています。地域住民の方々から届く、「サントリーの努力によって森の手入れができるようになった」といった声を聞くと、やはり企業理念の意味や意義の大きさを実感するようです。

環境課題の解決や社会貢献の意義を、単に知識として得ているだけでなく、共感をともなって個々の社員のなかに浸透している感はあります。サントリーではグローバル化が進んでいますが、これは、地域や国籍を問わず、全社員に共通するものと感じています。

● 気候変動を軸とした消費者とのコミュニケーションに関して、計画されていることはありますか?

気候変動に対するメッセージの訴求は、今後の課題の1つだと考えています。今のところは、いきなり「天然水」の水の話とCO2を結び付けるのは伝わりにくいと思いますので、きちんと森の健康について訴求をする、水の品質の正しさを伝えるといったことから実行していきたいと思っています。複数の情報をまとめて伝えるのは難しいと思いますので、商品やブランドを切り口として、優先してできるところから訴求していく、伝えていくというのが現実的かもしれません。

しかし、社会・環境課題を前面に打ち出した訴求方法を諦めているわけではありません。時間を追って、世の中の文脈のなかで、きちんと商品訴求とリンケージできるように、取り組んでいきたいと思います。

現状では、商品情報と、ご質問にある気候変動を軸とした環境訴求とは、多少の距離があるように受け取られているかもしれませんが、だからこそ「水と共に生きる」というメッセージが生きてくると感じています。私たちは、言葉だけでなく実践している、そして、これからも実行し続ける、という自負があります。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月メンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長、2022年度からは、アースデイジャパンネットワークの共同代表を務める。

※この記事の情報は2020年10月01日メンバーズコラム掲載当時のものです

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