「脱炭素社会への移行をビジネス視点で進める」 日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP):Social Good Company(団体編) #45
※この記事の情報は2020年08月26日メンバーズコラム掲載当時のものです
脱炭素社会への転換をビジネスの視点から取り組む、日本独自の企業グループ 日本気候リーダーズ・パートナーシップ(以下、JCLP)。今回は、事務局の方々に、RE100や再エネ100宣言 RE Actionの取り組みを中心にインタビューの機会をいただきました。
JCLPは、ビジネスの立場から、2050年ネットゼロ達成に向け、脱炭素社会への実現を目指す。
需要家、供給家双方が集まり、脱炭素化に向けた企業にとっての重要動向を把握のうえ、実践に向けた協働、民間では対応できない課題を政府に伝える活動を行う。
電力需要家が企業グループとして集結し、そのニーズや意思を発電事業者や日本政府に伝える。
脱炭素社会に向け、備え行動することは、市場での競争優位性の確保につながる。
● はじめに、JCLPの概要や設立の経緯をご紹介ください。
JCLPは、ビジネスを通して、脱炭素社会の実現を目指す企業グループです。理念だけではなく、会員企業が気候変動対策を事業活動にも活かす活動を実施しています。具体的なゴールは、パリ協定の目標(産業革命以降の気温上昇を2度(1.5度)未満に抑える)であり、それを達成するうえで、またビジネス環境の変化に備えるためにも、企業の立場からの活動を実施しています。
設立の経緯は、イギリスの「気候変動に関する企業リーダーズグループ」(以下、CLG:The Prince of Wales’s Corporate Leaders Group)の後援をしているチャールズ皇太子が2008年に来日した際に日本企業と対話する機会があり、日本でも同様の企業グループを2009年に設立したのが、JCLPです。
以前は英国でも気候変動対策に産業界が反対するなか、先進企業群としてCLGが支持を表明し、産業界の姿勢変更を促したことで英国の気候変動法施行の後押しの役割も果たしたと聞いています。気候変動法とは、世界に先駆けて、2008年に制定された、温室効果ガスの排出を2050年に少なくとも80%削減するという、長期的な目標を設定しています。
企業の姿勢が変わることは、社会を変える上ではとても重要になりますので、JCLPでも英国の企業グループを、企業の立場からの脱炭素化を後押しし、政策に影響を与える役割においてモデルとしています。
● 英国は以前より、環境対策に積極的に取組むイメージがありましたが、2000年前半はネガティブだったんですね。
CLGの活動が後押しとなり、産業界の姿勢が変化し、法制度の整備まで進んだと聞いています。
また、企業資産の考え方もパリ協定により変わりました。パリ協定の目標である、気温上昇を2℃未満 (1.5度)以内に抑えるためには、今後排出できるCO2の量も上限が設けられます。これを炭素予算、カーボンバジェットと呼んでいますが、目標を達成するためには、上限を超えるCO2は排出できないということです。つまり、CO2を大量に排出してしまう化石燃料を資産として持っていても、炭素予算を踏まえると実際には使うことができない、座礁資産となってしまいます。
気候変動対策の観点から、化石燃料の価値が減少していくなか、実際以上に価値があるように評価されてしまうことは、金融の安定性に影響をおよぼすとして投資家も注目するようになりました。金融セクターとして、投資先における気候関連のリスクと機会を理解する必要があるとして、国連金融安定理事会(FSB)によりTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)が設立され、気候変動に関する企業対応の情報開示がグローバルで進むことになります。
すなわち、投資家の視点からも、企業は気候変動への対策が求められています。CO2を排出しない社会へ変わっていくうえで企業自身も自社の商品やサービスを変え、備える必要があるということです。早めに備え対応することは、リスク対応だけではなく、市場での競争優位性の確保につながります。JCLPでは、各活動を通して、会員企業がいち早く気候変動関連の動向を知ることができるようになっています。
● JCLPのWebサイトを見ると、企業グループというキーワードが強調されています。企業グループとして連携する重要性を教えてください。
企業が脱炭素化を進めていくなかで個社では解決できない課題について、企業間で情報交換や連携することで対策を検討できる環境があります。脱炭素化の実践に本気で取り組んでいる企業が集まることで共通の課題へ対応するアイディアがうまれることがあります。その最近の例が、コーポレートPPA(Corporate Power Purchase Agreement:電力需要家が、発電事業者と直接、長期の電力購入契約を結ぶこと)プロジェクトのように新たな再エネ調達のあり方を検討する取り組みです。また、民間の活動だけでは解決しない課題については政策関与活動を行っています。
JCLPには、供給者側の事業者も参加していますが、特徴の1つは、需要家の結集、つまり需要家が1つになって、供給者側にそのニーズや要望を伝えることができることです。
日本は、再エネ調達が難しい国の1つとして挙げられています。企業が一体となって、政府に対して、政策提言をすることは重要です。RE100を宣言しても、再エネの価格が高かったり、規制等の影響で必要とする量の再エネの調達ができないのが現状の課題です。連携する重要性としては、こうしたことは、一社で取り組むよりも、グループで一緒に声を上げようということです。
たとえば、RE100に参加し2050年までに再エネ100%を目指すうえで、まずは、声を上げ、宣言すること、そして、社会を変える努力をするための政策提言はとても重要です。
● 政策提言によるこれまでの成果はいかがですか?
昨年の11月に、電力送電の際に、発電者に対して料金を一律課金するという法案の検討がされていました。需要家の立場から、一部の再エネ価格が上がってしまう懸念もあり、JCLPとして、需要家への影響に配慮した対応を求める意見書を公表し、経済産業省への提出を行いました。
経産省としても、これまでは、発電事業者側、つまり、供給者から意見をきく機会は多かったものの、企業グループとして需要家の立場からの意見を受ける機会がこれまであまりなかったとして、一定の反響があり、また、様々なアクターが声をあげたことから、需要家への影響にも配慮した検討を行う流れになっています。
また、国内のCO2排出削減目標の引上げを求める意見を各省庁の大臣に提出し、将来の再エネ比率を上げること、そして、CO2削減は、需要家の意思でもあることを発信しています。
●事業を通して、脱炭素化の具体的な成果を教えていただけますか?
JCLPでは、気候変動において、企業として一歩先に備えた対応を進めるため、経営層や社内での理解浸透に繋がる重要動向を把握し、実際に自社による脱炭素化の宣言や実践を進めています。
また、重要な動向については海外視察や専門家との直接の対話の機会を通じて世界の動きを肌で感じ、脱炭素化が重視されている文脈をより深く理解し、企業として備えるうえでの重要なポイントを把握しています。
さらに、RE100を進めるうえで、再エネの調達等、悩んでいる企業が集まり解決策を探る仕組みとして、最近では、脱炭素コンソーシアムという、オンラインのデジタル・プラットフォームを整備しています。プラットフォームでは、供給側と需要家とのマッチング機能により、必要となるソリューションを提供しようとしています。
また、これまで再エネの開発は、固定価格買取制度(FIT制度)に頼っていたのが現状です。しかし、需要家である企業からは、価格や直接的な調達のし易さの面から、不十分であると言えます。解決策はいくつかありますが、その中で、コーポレートPPAの取り組みがあります。コーポレートPPAも発電事業者、金融機関、需要家企業などのJCLP会員が連携して取り組むことで、その動きを促進させていきます。
● 企業が取り組む再エネの調達方法やCO2の削減方法に関して、最近のトレンドがあれば教えてください。
まず企業が取り組むこととしては、多くの場合、使用する電力を削減する省エネが挙げられるでしょう。省エネにより使用量が効率化された電力を再エネに切り替えるうえで、大規模な土地や建物を保有する企業は、自社の敷地内に太陽光パネル等を設置し自家消費をしています。
また、そういった土地や建物を持たない企業は、電力会社や小売り事業者から再エネメニューの電力を購入するケースが多いと思います。再エネではない電力を購入し、環境価値を付与する電力証書を購入するという方法もありますが、通常の電力料金に加え、追加コストが掛かります。
なお、電力証書を購入する際も、RE100では、調達電力が再エネ由来であることをきちんと証明する必要があります。しかし、電力源の明示がされていない電力証明書もありますのでこの点ご留意ください。
今後は、企業が求める電力量に応じた再エネの提供や、再エネ由来の電力であることを需要家が把握できる仕組み(トラッキング)が求められるでしょう。また、比較的小規模事業者である、再エネ100宣言 RE Action参加企業に対しては、環境省が提供する助成制度等を紹介しています。また、自社で使用する電力に加えて、サプライチェーン(スコープ3)まで含めた再エネ化はまだそれほど進んでいませんが、Appleはサプライチェーンによるカーボンニュートラルを2030年までに達成する目標を発表しており、国内の需要家も今後求められていく取り組みとなっていくでしょう。
● 再エネ100%に取り組むうえで、RE100、再エネ100宣言 RE Actonに参加する企業の課題はどのようなことが挙げられますか?
RE100や再エネ100宣言 RE Actionに参加はしたものの、具体的にどうしたら分からないという声を多く聞きます。目標は掲げたものの、その目標をどう達成すべきかということです。
課題の1つが、再エネ電源の価格が高いということが挙げられます。正確には、中小規模の電力需要家にとっては現行の電力と競争力のある価格に近づいてきていますが、使用量が多い大手企業等、大口顧客のニーズに合った価格帯にはまだ届いていない状況です。しかし、数年前と比較すると価格は下がってきており、最近では、送電線を経由しない自家消費の方法等、大手需要家の求める価格感に整合した調達方法も出てきています。
また、調達する再エネ電源の「追加性」も今後の課題として挙げられます。追加性とは、既にある再エネ電源を利用するのではなく、新たな電源の開発に繋がるかを考慮することです。特に外資系企業は、追加性の観点から、自社の取り組みが再エネの拡大にどう貢献できているのかを重視しています。海外のこうしたトレンドにより、今後日本企業も追加性が重視されることでしょう。
今国内で多く調達されている卒FIT電源(FIT制度を卒業した電源)は、現時点ですでに再エネとして発電している電源となりますが、脱炭素社会の実現には、卒FIT電源以外に、再エネ由来の電源を今後も増やしていくということです。
また、JCLPはRE100の地域パートナーを務めていることから、自社におけるRE100対応のご相談を事務局で受ける機会がありますが、RE100に対応していくうえでの社内の理解を課題として挙げる企業もいらっしゃいます。つまり、全社でRE100に取り組んでいるという環境を作ることの重要性が求められています。こうした、参加する企業の方々の課題を全体で共有し、悩み、解決する場、仲間を増やす場として活用していただければと思います。
●そうした役割を担うための企業連携であり、企業グループなんですね。
そういうことです。今は多くの企業がRE100等、脱炭素化に向けた宣言をし始めていますが、企業にとって、再エネ導入は課題はあるものの、環境が整いつつある過渡期であると考えています。数年前と比べると再エネ調達を取り巻く環境は大きく変化し、企業の皆さんが連携し声を挙げ続けることによって、さらに変化し、明るいゴールも見えてくるでしょう。
今、何が課題で、その課題をどう解決すればいいのか、JCLPとして、今後どのような活動が求められるか、そうしたことを毎月開催する定例会や、勉強会等を通して、検討を進めています。
● 定例会や勉強会の内容を教えていただけますか?
国内外の有識者が講師となり、話を伺う機会等も積極的に設けています。たとえば、国内でTCFDの動きが広がる前に海外の機関投資家との対話やTCFD事務局による勉強会開催を実施しました。最近では海外のコーポレートPPAの事例を共有するための勉強会も、海外の企業グループの方をお招きして行っています。
また、正会員企業向けの定例会では、社内の取り組み等の公開情報からは入手できないお話もお聞かせいただいています。参加企業の皆さんが、そうした機会を通して学び、切磋琢磨している状況です。
● 企業自らの脱炭素化に向けた取り組みに関する情報発信はいかがですか?
国内でRE100を宣言している企業の約7割、また、SBT1.5度の認定を受けている企業の7割はJCLP会員です。このようにJCLPの会員企業は野心的な目標設定をされていることが特徴としてあげられます。さらに脱炭素化を実践する会員企業を増やすことを目指しましょうとの意見も出ています。
● 最後に、2050年 脱炭素社会に向けた展望をお聞かせ下さい。
企業の立場から社会を変えることが、JCLPの究極のゴールです。今後もより多くの企業が参加することでJCLPの活動、発信力を大きなものとして、社会の変化を後押しする必要があります。また、社会の変化を促すJCLPからの発信に説得力を持たせるうえで、脱炭素化を実践する企業を一社でも増やしたいとの意見も、会員企業から出ています。そうした声や実践例を通して、今後も日本政府に社会を変えるための声を届け、2050年までにCO2排出ゼロを目指していきます。
また、JCLPが協議会メンバーを務める再エネ100宣言 RE Actionも国内の中小規模の事業者、教育機関、医療機関、自治体が参加する、RE100の国内版のような取り組みです。RE100の補完関係にあるかたちで国内の再エネ需要を広げていくことを目指していきます。こちらは、多くの自治体と協力し、電力の地産地消を進め、日本全体のなかで再エネ調達ができる環境に繋げていければと思います。
※この記事の情報は2020年08月26日メンバーズコラム掲載当時のものです
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