「再エネの自給自足をお客さまにも社会にも」 大和ハウス工業:Social Good Company #55
※この記事の情報は2020年12月15日メンバーズコラム掲載当時のものです
建設業界として世界で初めて、国際的な4つの環境課題解決のイニシアティブに参加した大和ハウスグループ。再生可能エネルギーづくりから始まるユニークかつ意欲的な気候危機対策についてうかがいました。
自らつくり、自ら運び、自ら使う再エネの自給自足を実現
再エネ発電の目標値を10年前倒しで達成
環境課題への対応を事業機会に直結
● 大和ハウスは気候危機対策としての脱炭素化に積極的に取り組まれています。その理由を教えてください。
気候危機によって住まいや暮らしの安全・安心が脅かされていることが、脱炭素化に取り組む最大の理由です。何十年に1度というような気象災害が毎年のように発生するなかで、マイホームが水浸しになる被害が各地で発生しています。このような状況が続くと、お客さまが住宅を所有すること自体にリスクがあると考えてしまう可能性があります。
私たちの住宅事業において重要な使命は、お客さまに安全・安心な住まいや暮らしを提供し、心豊かな住生活を送っていただくことです。この使命を果たすためにも、当社グループは率先して脱炭素化に取り組んでいます。
● 建設事業・住宅事業にとっては、気候変動が経営リスクにも直結しているのですね。
欧米では、日本よりも気候危機に伴う不動産リスクの考え方が進んでいます。大手保険会社によると、平均気温が4℃上昇すると、気候変動がおよぼす災害により、建物・土地関連の保険事業が成り立たないという試算もあるほどです。またアメリカの一部地域では、海面上昇のリスクにさらされているエリアの不動産価格は下落しています。
● 気候危機への取り組みを急がないと、生活者がマイホームの夢を持てない、つまり住宅事業が成り立たない時代が来てしまうかもしれない、ということですね。
世界の脱炭素への動き、これも私たちが脱炭素化に取り組む理由です。欧米各国の企業がCO2排出量ゼロや再生可能エネルギー利用率100%の目標を表明することはもはや当たり前ですし、実際に日本より再生可能エネルギー率が高くなっています。
また、現在では欧州の機関投資家の半分以上がESGに投資していると言われています。特にESGを成長エンジンにしようと考えているグローバル企業は、企業のトップがCOPやその周辺イベントに参加し、自らセールス活動を行っています。ESGをリスクと捉えるだけでなく、ビジネスチャンスでもあるということを実感している証でしょう。
このようにESGを経営の中心に据えるグローバル企業においては、もはや脱炭素化は「ビジネスのパスポート」であると思います。こうしたことから、大和ハウスグループが将来にわたって持続的成長を遂げるために、脱炭素への取り組みは不可欠だと考えています。
● 気候危機対応として、大和ハウスではどんな目標を定めているのでしょうか?
2016年に、創業100周年(2055年)までの達成を目指す環境長期ビジョンとして「Challenge ZERO 2055」を策定しました。「人・街・暮らしの価値共創グループ」としてサステナブルな社会の実現を目指し、グループ、グローバル、サプライチェーンでの、環境負荷ゼロに挑戦しています。
その実現に向けて、「気候変動の緩和と適応」「自然環境との調和」「資源保護・水資源保護」「化学物質による汚染の防止」という4つの重点テーマを設けていますが、特に「気候変動」を最重要テーマに掲げ、設備の省エネ化と再生可能エネルギーの利用拡大に取り組んでいます。
目標を実現するために、「環境負荷削減と企業収益拡大の両立」をコンセプトに据えている点が特徴です。環境負荷削減を単なるリスク最小化のための取り組みと捉えず、環境への取り組みを通じて付加価値を向上して収益の拡大につなげることを重視しています。
● 目標を設定するに当たって、取り組んでいることを教えてください。
2018年、温室効果ガス(GHG)削減を目指す「SBT」(Science Based Targets)、また、GHG削減の実効性を高めるためエネルギー効率2倍を目指す「EP100」、事業運営に要する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す「RE100」に参画しました。大和ハウスグループ全体で、2030年度までに売上高あたりGHG排出量を2015年度比45%削減、2050年度までにGHG排出ネットゼロを目標としています。
こうした脱炭素の取り組みを経営や事業戦略に落とし込んでいくために、気候関連財務情報開示タスクフォース「TCFD」(気候変動関連財務情報開示タスクフォース:The FSB Task Force on Climate-related Financial Disclosures)にも参画しています。
脱炭素に関する4つの国際イニシアティブへの参画は、建設業界としては世界初の挑戦です。
● EP100は日本初、RE100には日本企業で4番目に参加されています。大和ハウスの事業と気候危機の関連性が大きいとしても、先進的かつ野心的な取り組みだと感じます。
創業者は常々「世の中に必要とされる企業」であるように伝えてきました。この考えが大和ハウスグループの原点であり、この創業者精神に基づいた事業を展開してきました。まさに、今で言うところのSDGsの理念に近しい考え方です。こうしたことから、事業を通じて社会課題を解決する姿勢は、創業時から現在に至るまで脈々と受け継がれています。
その創業者が1990年代後半に「21世紀は風と太陽と水の時代が来る」として、再生可能エネルギー分野への進出を公言しました。FIT制度が始まる前から風力発電事業をスタートさせるなど、環境問題を見据えていち早く環境エネルギー事業を拡大してきた歴史もあります。
● EP100に関しては、どんな取り組みをしているのでしょうか?
エネルギー効率(=売上高/エネルギー使用量)を、2015年度を基準年として2030年度までに1.5倍、2040年までに2倍にすることを目指しています。すでに基準年である2015年度時点で、2005年度に比べてエネルギー効率2倍を達成しているので、さらにエネルギー効率を2倍に高めるというのは、かなりハードルが高い目標なのですが、GHG削減に向けて果敢にチャレンジしています。
大和ハウスグループは住宅や建築事業だけでなく、商業施設やリゾートホテル、ゴルフ場、介護施設などさまざまな施設運営も行っており、GHGの約半分はこれらの施設運営により排出されているため、施設でのエネルギー利用効率向上による省エネ化や再生可能エネルギーの利用も非常に重要です。
そこで、既存施設では建物用途ごとにモデル事業となる「トップランナー事業」を選定。集中的に省エネ対策を実施し、高い効果が得られた対策をほかの施設に水平展開しています。また、既存施設で省エネを進めていくためには、老朽化によりエネルギー効率が低下した設備を計画的に更新していく必要があります。そのため、「省エネ投資ガイドライン」を策定し、毎年エネルギーコストの15%に相当する金額を、省エネを目的とした設備投資に充て、エネルギー使用量の削減を図っています。
新築施設に関しては、先端技術を実証する場として原則ZEB(Net Zero Energy Building)化を推進しています。奈良県に建設中の新研修センターではZEB対応に加えて、国際認証である「LEED」(環境関連)、「SITES」(ランドスケープ関連)、「WELL」(健康関連)の取得を予定しています。
● RE100に関しては、いかがですか?
自ら再生可能エネルギーをつくることを通して、再生可能エネルギーの普及拡大に貢献しながらRE100の達成を目指しています。大和ハウスグループでは、再生可能エネルギー発電所を開発・稼働させ、2030年度までに再生可能エネルギー発電量が自社の電力使用量を上回ることを目標にしています。今年度の再生可能エネルギー発電率は100%を上回る見込みで、目標を10年前倒しで達成できそうです。
再生可能エネルギー発電率100%を達成したあとは、自社でつくった再生可能エネルギー電力を順次、FITでの売電から自家消費に切り替え、2040年までにすべての使用電力を再生可能エネルギーで賄うことを目指しています。
● 再エネづくりを優先する取り組みは、非常に特徴的だと感じます。
日本の再生可能エネルギー率はまだ16%にとどまっているため、大和ハウスグループが再生可能エネルギー量の拡大に貢献するとともに、自分たちでつかう再生可能エネルギーは自分たちで責任を持ってつくることが重要と考えています。
現在、大和ハウスグループの再生可能エネルギー発電所は全国300ヶ所以上、発電容量は380MWまで拡大しています(2019年度末時点)。風力発電「DREAM Wind 佐田岬」(愛媛県)や水力発電「菅沼第1・2水力発電所」(岐阜県)、調整池を利用したフロート型の太陽光発電「DREAM Solarフロート1号@神於山」(大阪府)などバリエーションに富んだ再生可能エネルギー発電所を各地で稼働しています。
再生可能エネルギーを「つくる」だけでなく、再生可能エネルギーを「つかう」取り組みも着実に進んでいます。
2019年10月から施工現場で使う仮設電力を再生可能エネルギーに切り替えています。また2020年4月から大阪の本社ビルや東京本社ビルをはじめ全国のオフィス・展示場でも再生可能エネルギーの導入を進めています。2020年10月には、住宅業界で初めて工場の購入電力をまるごと再生可能エネルギー電力に切り替えるなど、再生可能エネルギーの利用拡大を加速させています。
前述のとおり、再生可能エネルギー発電率は2020年に目標の100%を達成できる見込みですが、再生可能エネルギー利用率については2019年度時点で0.3%とほとんど再生可能エネルギーを利用できていない状態でした。しかし、再生可能エネルギーを「つかう」取り組みを進めてきた結果、2020年度は7%程度まで一気に利用率が高まる予定です。2030年度までに30%、2040年度までに100%を目指してさらに取り組みを進めていきます。
現在、再生可能エネルギーを調達する手段がいくつかありますが、「トラッキング付非化石証書」を付加した電力メニューの選択が可能になり、再生可能エネルギーが利用しやすくなりました。当社グループは、発電事業と電力小売事業を手掛けているため、再生可能エネルギーを自らつくり(発電)、自ら運び(小売)、自ら使う――まさに「再生可能エネルギーの自給自足」を実現していきます。
● そうした企業活動を通した脱炭素の取り組みは、どのように事業戦略に落とし込まれているのでしょうか?
大和ハウス工業佐賀支店の事務所は、太陽光発電と大型の蓄電池を組み合わせ、日本で初めて再生可能エネルギーを自給自足できるオフィスの実証実験を行っています。自然換気や井水、太陽熱を活用した空調システム、自然光を活用した照明など、徹底した省エネによりエネルギー使用量を約5割削減しています。さらに、屋上に設置した太陽光発電システムにより、トータルでエネルギー使用量を約8割削減した、非常に先進的なオフィスです。この事例をモデルとして、環境先進企業であるリコージャパン様にZEBオフィスを建設いただいた実績もあります。
このように、自社の施設運営やEP100、RE100の取り組みで得られた省エネ・再生可能エネルギーのノウハウをお客さまへの環境配慮提案に活用し、住宅・建築事業の拡大につなげています。太陽光発電や電力と熱を供給する燃料電池などを活用し再生可能エネルギーで自給自足できる住宅や、オフィス、工場といった建物用途ごとに省エネ性能に優れた環境配慮型建築を実現できる「ディーズ スマート」シリーズなどがその一例です。
また、こうした住宅や建築を組み合わせて「スマートシティ」「スマートタウン」といった脱炭素型のまちづくりにも取り組んでいます。千葉県船橋市の大規模複合開発「船橋グランオアシス」では、日本初となる再生可能エネルギー100%のまちづくりを実現します。プロジェクトの施工から暮らしのなかで使うエネルギーに至るまで、再生可能エネルギー100%の電力を利用しています。さらに、当社の省エネや再生可能エネルギーの取り組みを広く社会に普及していくため、環境エネルギー事業では太陽光発電所の建設や再生可能エネルギー電力、省エネ機器の販売なども手がけています。
自社の活動とお客さまに提供する事業、この両面で取り組みを向上させていくことで、地球環境に貢献するとともに、企業価値を高めていこうと考えています。
● お客さまとのコミュニケーションということでは、Webマガジン「SUSTAINABLE JOURNEY」の運営など、素晴らしい活動をされています。こうしたWebサイトを立ち上げたきっかけを教えていただけますか?また、こうした環境対応の取り組みが、ビジネスとしても結実してきたと実感することはありますか?
もともとは、「Sustainable」という概念が、今後社会にとって必要となっていくと考え、2012年に紙媒体(冊子)でスタートしました。「人」「街」「暮らし」を切り口に、日本や世界各地の持続可能な取り組みを紹介することで、より広い生活者に対して身近なテーマとして感じていただくことが狙いです。活動を多くの方に知っていただくよう、2016年に自社サイト上でのWebマガジンに切り替えました。また、「SUSTAINABLE JOURNEY」を含めた環境対応に関して、法人向けの事業ではビジネスに結びつくことが増えていると感じています。特に外資系企業のお客さまからはESGスコアの提示を求められる機会などが増えていますので、環境課題にきちんと対応することが事業機会に結びつくという意識は広がっています。
一方で、個人のお客さまの間では、環境対策は値段が高いという認識がまだ根強く、そこは依然として課題となっています。
● 最後に、脱炭素社会に向けて、今後の展望をお聞かせ下さい。
気候変動をはじめとする環境・社会の課題に対しては、企業の社会的責任として取り組むべきであると思います。そして、こうした課題のなかには、実は事業機会に結びつけることができるテーマが幾つもあります。
だからこそ、単なるリスク低減としての取り組みで終わらせるのではなく、いかに事業に落とし込んでいくかということを考えながら、環境の取り組みを今後も進めていきたいと考えています。
※この記事の情報は2020年12月15日メンバーズコラム掲載当時のものです
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