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脱炭素経営実現に向けたアプローチ #2 Scope3測定する場合の課題は何か

1. データ収集の複雑さ

Scope3排出量の計算には、企業がサプライチェーン全体にわたる複数のデータソースからデータを収集する必要があります。サプライチェーン内のすべてのプロセスとアクティビティを把握し、適切な測定方法を選択する必要があります。

データ収集の複雑さとは、バリューチェーンを通じて多数のサプライヤーやその他の第三者から包括的で正確なデータを収集することの難しさを指します。企業は何百、何千ものサプライヤーを抱え、それぞれが独自の報告システム、データ形式、データ品質基準を持っている可能性があるため、これは困難な作業といえます。

さらに、エネルギー消費量、原材料の使用量、輸送距離、廃棄物処理方法など、さまざまな情報が含まれる可能性があります。このようなデータの収集には時間とコストがかかり、サプライヤーや地域によっては入手できるデータが限られている場合もあります。

データ収集の複雑さは、関係するサプライヤーの数が多いこと、必要とされるデータの種類が多いこと、データ収集と報告に誤りが生じる可能性があることから、Scope3測定における重要な課題といえます。

2. データの信頼性

データの信頼性は、企業のバリューチェーンを通じてサプライヤーやその他の第三者から収集したデータの正確性と完全性を意味するため、Scope3の測定において重要な課題です。間接的な温室効果ガス排出量を正確に算出し、排出量削減の機会を特定するためには、信頼性の高いデータが不可欠となります。

Scope3の測定において、データの信頼性に影響を及ぼす可能性のある要因はいくつかあります。

データの正確性:サプライヤーから収集したデータは、測定、報告、計算の誤りにより、不完全、一貫性がない、または不正確な場合があります。例えば、サプライヤーが廃棄物のリサイクル量を過大評価したり、生産時に消費されるエネルギー量を過小評価したりする場合がそれです。

データの入手可能性:一部のサプライヤーは、排出量を正確に報告するために必要なデータやリソースを有していない場合があります。そのため、データにギャップが生じ、バリューチェーン全体の排出量を算出することが困難となる場合があります。

データの一貫性: サプライヤーによって報告方法が異なる場合があり、バリューチェーン全体の排出量を比較することが困難な場合があります。また、時間の経過とともに報告方法やデータ収集システムが変化することで、排出量把握における連続性を担保する必要がでてきます。

データの検証: 適切な検証が行われなければ、サプライヤーから収集したデータの正確性と完全性を保証することは困難といえます。検証には、現地監査、第三者による検証、データのクロスチェックなど、さまざまな方法があります。

これらの課題に対処するため、企業はScope3測定におけるデータの信頼性を向上させるためにいくつかのステップを踏むことができます。これには、サプライヤーに対する明確な報告要件の設定、データ収集のためのガイダンスとサポートの提供、定期的なデータ検証の実施、バリューチェーン全体での一貫性を確保するための標準化された報告方法の使用などが含まれます。

3. 標準化された計測方法の不在

Scope3測定の標準化された方法論がないため、企業間での比較やベンチマークが困難です。一般的に、企業はGHGプロトコルやISO規格などの指標を使用してScope3排出量を測定しますが、これらの指標はまだ完全に標準化されていません。

標準化されていない理由として、バリューチェーンの複雑さ・バリエーションの多さもあげられますが、地域や国によって、温室効果ガス排出量の測定と報告に関する規制の枠組みが異なる点も注目に値します。このため、すべての地域の要件を満たす標準的な手法を開発することは困難な状態です。

このような課題にもかかわらず、Scope3測定のための標準的なアプローチを開発しようとする努力は国・関連する機関ですすめられてきています。日本においても一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)ほか、企業・機関が測定手法を開発、研鑽しています。

今後、企業や政策立案者が気候変動への対応やグローバルサプライチェーンの持続可能性の向上を目指すなかで、標準化の取り組みは進化を続け、より包括的に収処されていくと思われます。

4. コストと時間

Scope3測定には、データ収集、分析、レポート作成などの時間とコストがかかります。サプライチェーン全体でのデータ収集や分析は、多くの場合、膨大な時間と労力を必要とするため、企業は予算と時間に制限される場合があります。

サプライヤーや第三者からデータを収集することは、複雑でリソースを必要とするプロセスであり、特に数百または数千のサプライヤーが関与する場合、企業は新しいデータ収集システムやソフトウェアに投資し、スタッフを追加雇用し、データ収集を支援する第三者のコンサルタントに依頼する必要があります。

収集したデータの分析にも、時間とコストがかかります。データを分析し、排出のホットスポットや排出削減の機会を特定するために、企業は専門のソフトウェアや専門知識に投資する必要がある場合があります。

データの収集と分析が完了したら、企業は排出量を報告し、その結果を検証する必要があります。特に、企業が複数の報告枠組みや規制に準拠する必要がある場合、報告には時間がかかることがあります。また、企業が排出量データを検証するために第三者監査人を雇う必要がある場合、検証にはコストがかかることがあります。

これらのコストと時間の問題に対処するため、企業はScope3の測定プロセスの効率と精度を向上させるためのいくつかのステップを踏む必要があります。サプライヤーに対する明確なデータ収集・報告ガイドラインの策定、自動化されたデータ収集・分析システムへの投資、報告に必要な時間とリソースを削減するための標準化された報告フレームワークの使用などをプロジェクト化する必要がでてきます。また、企業はすべてのサプライヤーや活動からデータを収集しようとするのではなく、排出量に最も大きな影響を与えるサプライヤーや活動に対してデータ収集と分析の努力を優先する必要もあります。

気が遠くなる話ですね。んー、もう面倒だ!わが社ではScope3を測定するのをギブアップする!っていいたい気持ちはわかります。わかりますが・・・時代がそれを許してくれません。

Scope3を測定しない場合の企業リスクについては次に考えてみましょう。

脱炭素経営実現に向けたアプローチ シリーズ

#1 脱炭素の基礎知識「GHGプロトコル」
#2 Scope3測定する場合の課題は何か
#3 Scope3を測定しない企業のリスクは何か?
#4 Scope3測定に向けた心構え
#5 Scope3測定&改善に向けたプロジェクト化
#6 関係性を考える・・Scope3削減と循環経済とDX

ライター情報:数藤雅紀
株式会社メンバーズ 脱炭素DXカンパニー
循環経済&サスティナビリティ推進 ラボ所長
ケンブリッジ大学経営大学院循環経済プログラム修了、Global Compact Network Japan サーキュラーエコノミー分科会幹事。もと山一證券。金融・デジタル・DX・循環経済を得意とする。
Note:https://note.com/suto410
Facebook:https://www.facebook.com/Sutoh/

*この記事の情報は 2023年4月メンバーズコラム掲載当時のものです。

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