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SDGsウォッシュはなぜ起きるのか?サステナビリティの本質に向き合える組織とは|脱炭素DX研究所レポート#09 中編

本レポートは、株式会社MIMIGURI デザインストラテジスト/リサーチャーである小田 裕和さんによる寄稿記事です。

サステナビリティの追求が企業経営に求められる中、グリーンウォッシュやSDGsウォッシュも指摘されています。こうした事象はなぜ起こるのでしょうか。「良さ」をキーワードに、本質的なサステナビリティを追求できる組織の姿を探索していきます。

前編では、「ウォッシュという現象」について考察。小田さんは、その要因を「安易な『良さの借用』が広がってしまったことにある」と述べています。「どこから借りてきた良さ」に、人々は「自分ごと」として向き合うことはできない。良さそのものに自ら向き合い、そのあり方を探究しようとすることが大切なのです。では「良さに向き合う」とは具体的にどういうことなのでしょうか。

葛藤と向き合う中に、「良さ」は見えてくる

そもそも、持続可能な開発とは、一概に「何が良いか」を定義することが難しい側面があります。例えば、太陽光発電一つとっても、土砂災害を巻き起こしてしまったこともあれば、廃棄の問題もあります。あるいは昆虫食の推進活動に対して広がった抵抗感や不信感なども記憶に新しいものです。良かれと思ってやった活動が、誰にとっても良いとなるとは限りません。全く電気を使わずに暮らすことを良いとする人もいれば、クーラーを使わねば熱中症になってしまう状況が目の前にある人もいます。

持続可能な開発を進めるということは、こうなったら良い、という1つの正解に向かっていく活動ではなく、様々な葛藤の中で自分たちなりの納得解を模索し、そこに向かっていこうとする活動なのです。

そこにある様々な葛藤に向き合い、私たち自らが納得できる「何を良いとするか」を探っていくこと。どんな取り組みであっても、ここに向き合わなくなった瞬間に、「ウォッシュ」のような状況は訪れます。プレミアムフライデーも、「私たちが良いと思える、豊かな暮らしと仕事の関係とは?」という問いにさほど向き合わないまま、広がってしまっていた活動と言えるでしょう。

そもそも私たちは、誰のために、何を持続させていきたいのでしょうか?後世の未来のために、ということであれば、どんな未来を残すことが良いことなのでしょうか?未来の人々のためであれば、今を生きる人々は、多少なりとも犠牲を払うべきなのでしょうか?

サスティナビリティの根元にある「選択可能性」

こうした問いと向き合う上で、あるいは「良さ」と向き合う姿勢について考える上で重要なキーワードの一つに「選択可能性」というものがあります。

難しく捉えると、哲学における「自由意志」や「決定論(人間の意志、行為など普通自由だと考えられているものも、実はすべて何らかの原因によってあらかじめ決められているという考え)」と関連してくる概念ですが、端的に表現すれば、「選択することができる可能性が存在していること」と言えます。裏を返せば、選択することができなくなった状況下では、人間は自由な存在とは言えなくなるということです。

もっとも、地球が膨張する太陽にのめり込まれ、消滅していく未来はほぼ確実にやってくるものと言われています。そこに選択可能性は存在しないと言ってもいいでしょう。 しかし、それまでの間、私たち人類がどのように生きていくか、あるいは別の星で生きていくという可能性を見出そうとするか、というところに、選択可能性は存在しています。

持続可能な開発を目指すということは、未来の世代に対してより豊かな「選択可能性」を残していくことだと言えます。もちろんすべての制約を取り除こうとすることはできませんが、未来に生きる人々が、自分たちでより良い生き方を選択していける社会を実現しようとすることが、サスティナビリティの本質と言えるでしょう。

しかしながら、今日SDGsや様々な指標に対して、自ら何が良いかを考えることもなく、「これをやっていれば良いのだ」と安易に判断していることは、選択可能性を自ら放棄していると言えるのではないでしょうか?あるいは組織の従業員に対して、「何が良いか」を考える機会も与えることなく、ただ指標を追いかけさせることは、従業員に対する「選択可能性」を抑圧していると言えるのではないでしょうか?

最後となる後編では、「良さ」と向き合い続けてきた地域の事例をご紹介しながら、組織の在り方を考えていきます。

続きは後編で。

著者プロフィール:
小田 裕和|Hirokazu Oda

株式会社MIMIGURI デザインストラテジスト/リサーチャー

千葉工業大学大学院工学研究科工学専攻博士課程修了。博士(工学)。デザインにまつわる知を起点に、新たな価値を創り出すための方法論や、そのための教育や組織のあり方について研究を行っている。特定の領域の専門知よりも、横断的な複合知を扱う必要があるようなプロジェクトを得意とし、事業開発から組織開発まで、幅広い案件のコンサルテーション、ファシリテーションを担当する。主な著書に『リサーチ・ドリブン・イノベーション-「問い」を起点にアイデアを探究する』(共著・翔泳社)がある。

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