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【事例紹介】酒類・ワイン業界における循環型パッケージ「ecoSPIRITS」

脱炭素へ向けた活動や循環型パッケージの開発が世界中で進むなか、シンガポールの会社Proof & Companyは、酒類およびワイン業界における使い捨てガラス容器の問題に対し、再利用可能な容器である「ecoSPIRITS(エコスピリッツ)」を提供しています。

今回はこの「ecoSPIRITS」を題材に、「※Circularity Deck(サーキュラリティデッキ)」を使用し、現状(AsIs)とさらなる将来性(ToBe)について解説します。

※サーキュラリティデッキとは、サーキュラーエコノミーに向けた新しいアイデアやアクションを特定するフレームワークを、カードデッキにしたものです。サーキュラリティデッキについての解説記事はこちら

「ecoSPIRITS」とは?

普段、私たちは生活の中で、ビールをはじめとする飲料の瓶を大量に使用しています。2020年には、世界で約700億本もの使い捨てのガラス製スピリッツやワインボトルが廃棄されました。この状況を打破するため、欧米では循環型パッケージシステムを導入する企業が増えています。

なかでも、Proof & Companyは、酒類およびワイン業界のサプライチェーンにおける使い捨てガラスの廃棄物を、ほぼすべて排除することを目指し、サーキュラーエコノミーにおける蒸留酒の革新的な流通サービス「ecoSPIRITS」を開発しました。

「ecoSPIRITS」のシステムと循環社会への貢献

「ecoSPIRITS」の仕組みは簡単です。

①「ecoPLANT」と呼ばれる工場で、循環型パッケージである「ecoTOTE」の洗浄、消毒、蒸留酒の詰め替えを行います

② 「ecoTOTE」を消費者向けの詰め替え機械である「Smart Kiosk」や、バーなどの飲食店へ輸送します

③ 飲食店の場合、バーテンダーは「Smart Pour」機能を使用し、「ecoTOTE」内の蒸留酒をボトルやグラスに注ぎ消費者へ届けます

④ 使用後、空になった「ecoTOTE」は「ecoPLANT」へ返却し、洗浄、消毒、蒸留酒の詰め替えを行います

⑤ この①から④のサイクルを、「ecoSPIRITS」のクラウドベースのソフトウェアである「Circular ONE」で運用管理やサプライチェーンの追跡し、循環型経済の実現をコントロールします

「ecoSPIRITS」のシステム(参照: https://ecospirits.global/our-products/)

このシステムには以下のメリットが挙げられます:

①ガラスボトルの削減
「ecoTOTE」1つで1,000本のガラスボトルが不要になり、ボトル1本あたり550gの二酸化炭素排出量を節約できます。さらに、衝撃や改ざんに強く、約100サイクルにわたる再利用が可能です。

②梱包・輸送コストと炭素排出量の削減
ガラスと段ボールの廃棄物を95%削減し、包装と配送による炭素排出量を60〜90%減少させます。

「ecoSPIRITS」は2024年時点で、約3,000の会場パートナー、約200のスピリッツとワインのブランドパートナー、27カ国で市場を展開しています。具体的には、スミノフ、ゴードンズ、キャプテン・モルガンなどのブランドと提携し、クルーズ船や航空サービス向けにも循環型パッケージが導入されています。

サーキュラリティデッキで分析・分類

「ecoSPIRITS」には、どのようなサーキュラーエコノミー的要素が含まれているのか、メンバーズが採用するサーキュラーデザインツールを用いて分析・分類してみましょう。

使用するツールは「Circularity Deck(サーキュラリティデッキ)」です。サーキュラリティデッキとは、5つの戦略×3つの階層で構成される51枚の戦術カードです。このツールを使用して、現状(AsIs)-将来性(ToBe)軸と、直接的(Direct)-間接的(Indirect)軸で分析を試みています。

「ecoSPIRITS」の事例を、上記のサーキュラーデッキを用いて調査分析した結果が以下の画像です。

デッキを使い「ecoSPIRITS」を分析

今回は、現状(AsIs)-将来性(ToBe)軸に焦点を当て、それぞれの事例分析の内容をみていきましょう。

サーキュラリティデッキ 現状(AsIs)分析

まずAsIsでは、NE1、 NB1、 NP2、SP1、SE1、CE2、CB2、CB3、IE1の戦術カードが実践されていることがわかりますね。ここでは、主要な5カードについて解説します。

SP1:分解・再組立が容易なデザインにする
ecoTOTEはリサイクル可能で、洗浄と再利用が行いやすいように設計されています。

SE1:使い捨てを再利用に変更する
飲食店やバーが使用済みのボトルを簡単に返却し、再充填できる仕組みを提供しています。

CB2:製品回収スキームを構築する
消費者が使用後のボトルを簡単に返却できる製品回収スキームを導入しています。

NP2:軽量な製品のデザインにする
軽量なボトルデザインにより、輸送時のエネルギー消費を減少させています。

CE2:複数企業による共創を実現する
異なる業界の企業との連携を強化し、持続可能な製品開発を進めています。

サーキュラリティデッキ 将来性(ToBe)分析

今後、「ecoSPIRITS」がさらなる発展を遂げるためには、どのような戦略を取り入れればよいでしょうか。以下が将来性(ToBe)分析の結果の一例です。

CE2:複数企業による共創を実現する
大手飲料メーカーや化粧品メーカーとの協力により、共通のボトルデザインや再利用システムを導入し、地域経済の活性化と資源の効率的な利用を促進します。

IB1:製品利用時データを追跡する
「CircularONE」ソフトウェアをさらに活用し、製品の使用状況をデータとして収集・分析することで、消費者行動や市場トレンドを把握し、製品改良や新製品開発に役立てます。

SP1:分解・再組立が容易なデザインにする
消費者の使いやすさとデザイン性を重視し、バーや飲食店の運営における利便性を向上させます。デザインの工夫は消費者の興味を引くポイントにもなります。

NP3:多機能なデザインにする
製品の価値を高め、消費者のニーズに幅広く応えることで、廃棄物の削減や資源の効率的な利用を促進します。

ビジネスの将来性に関する考察

以上の将来性(ToBe)分析から、販売モデルの進化として「①他業界への拡張」、「②個人市場への展開」、「③スマホ連携によるカスタマイズ強化」について考察してみます。

① 他業界への拡張
CE2の要素を活用し、酒類・ワイン業界以外の大手メーカーや地域の中小企業、スタートアップとの連携を通じて、地域経済の活性化や資源の効率的な利用ができそうです。

②個人市場への展開
SP1の要素を取り入れ、消費者向けの分解・再組立が容易なデザインや、返却・再利用に対するインセンティブを導入することで、消費者を巻き込むビジネスモデルを構築することが可能になります。これにより、個人レベルでの持続可能な選択が促進され、環境負荷の低減につながります。

③スマホ連携によるカスタマイズ強化
IB1の要素を取り入れることで、ユーザーのスマホとサーバーを連携させたユーザーカスタマイズ機能や、アプリを通じたコンテンツやコミュニティ機能の導入が可能になります。

まとめ

今回ご紹介したProof & Companyの「ecoSPIRITS」、いかがでしたでしょうか?酒類・ワイン業界を超え、消費者を巻き込むサーキュラーエコノミーの挑戦として、期待が持てますね。

サーキュラーエコノミーにご興味を持っていただいた皆さま、ぜひお気軽にこちらまでお問い合わせください。

ライター情報:川村 芽生
株式会社メンバーズ CSV本部 脱炭素DX研究所所属
南北問題や貧困問題に関心があり、大学では国際学部で環境学を専攻。ゼミナールではエコビレッジや社会調査法を実践的に学ぶ。
大学での学びや海外を旅して得た知識・経験を、より多くの人に発信したいと考え、エコツーリズムに関する情報発信を行うウェブインターンを経験。
デジタルマーケティングで持続可能な社会への変革をリードすべく、メンバーズへ入社。
SEO記事制作、ディレクション業務を担当。
関心のあるテーマ「ソーシャルビジネス」「国際協力」「エコツーリズム」「農業」

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