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【事例紹介】ペーパーシート洗濯石鹸の深い意義:The Reusies/Circularity 23 で大賞受賞

2023年6月7日、ワシントン州シアトルで開催されたイベント「Circularity 23」にて、2023年のアワードが発表されました。受賞企業の一つとなった、ジェネレーション・コンシャス社(Generation Conscious、以下GC社)は、非常に画期的かつ優れたサービスを提供しています。
今回はこのGC社を題材に、Circularity Deckを使用して、GC社の現状(AsIs)とさらなる可能性(ToBe)について解説します。

"The Reusies/Circularity 23"とは?

循環戦略を構想し、加速・拡張することを目的にした米国の有力NPOのひとつが「Upstream Policy Institute, Inc. (DBA Upstream®) 」が毎年開催するアワード「Reuse Awards」(ブランド名称: The Reusies。今年は6月米国ワシントン州シアトルで「Circularity23」と銘打ち開催されました。
会場には多くのReuse(再利用運動)のリーダーやイノベーター、ゲームチェンジャーが集い、受賞表彰式イベントは大盛況だったようです。このイベントは「サーキュラーエコノミーのリユーズ分野でのオスカー賞」とも言われています。

受賞したGC社って?どんなサービス?

Circularity 23の「最も革新的なリユース企業」部門で表彰されたのが「GC社」です。

このビジネスモデルは非常にシンプルです。
 ペーパーシート型洗剤を開発、その販売手段を自動販売機に限定し、大学、集合住宅、商業用不動産などを自動販売機の設置場所としています。洗濯1回につき1枚のペーパーシートでOK、購入者は必要な枚数を1枚単位で購入します。ペーパーシートのみの販売なので洗剤容器なしですし、自動販売機自体もコンパクトな形となっています。

このビジネスモデルの優れている点を列挙すると、

◯ 取り扱いがシンプル
一般的に使用される洗濯洗剤は粉末または液体ですが、液体洗剤のほとんどは水分です。液体洗剤は重くて場所を取り、かさばり、垂れるなどの問題があります。粉末洗剤も重く場所を取り、飛び散るなどの課題があります。一方、ペーパー洗剤は破って撒くだけで使用できます。非常にシンプルな使い方です。

◯ 使いたい分だけ購入可能
一般的に販売されている洗剤は、何十回分の洗濯に使用できるセット品として販売されています。しかしGC社のサービスでは、必要な時に必要な量だけ購入でき、使いたいときに使いたい分だけ購入できる点が(低所得の学生や貧困層などの)お財布にやさしいです。ペーパーシートであるがゆえにコンパクトで持ち運びも容易です。

◯ 容器がない
GC社のサービスでは、洗剤の容器自体が存在しません。代わりにペーパーシート洗剤だけが提供されます。このことにより、容器の製造、流通、廃棄に伴うコストや二酸化炭素の排出量を削減することができます。

◯スマホ決算
購入はキャッシュレス。これは購入者履歴を含めた顧客情報の獲得にもつながります。

報告によれば、このサービスにより、4.8トンの水の削減、154トンの二酸化炭素排出量の節約、32,000個のプラスチック容器の廃棄を防止することができたとされています。これは素晴らしい成果ですね。

サービスが生まれた背景とパーパス

GC社のCEO兼創設者であるG.L.は、トリニダード系イタリア人の家族と共にニューヨーク市クイーンズ区ジャマイカで育ちました。ジャマイカの近くには廃棄物処理場があり、その場所の環境が非衛生的であることを目の当たりにしました。この経験がGC社を設立する動機となりました。

GC社の使命は以下の3つです:

1. 衛生不安の解消:低所得の学生に経済的な障壁をなくし、環境に配慮した製品や習慣を利用できる機会を提供する。
2. プラスチックと水の無駄を削減する:キャンパス内の学生が使用する衛生用品によって生じる二酸化炭素排出量を削減する。
3. 有害な製品流通構造からの離脱:生態系や黒人・褐色人種のコミュニティに有害な製品流通構造が及ぼす影響を排除する。

GC社が目指すパーパスは、よりクリーンな世界を構築し、すべての人々に廃棄物ゼロの現実を実現することです。このクリーンという部分、「ゴミを出さない」と「人々を衛生的にする」という2つの意味を持っています。

サーキュラーデザインで分析・分類

この素晴らしいサービスには、どのようなサーキュラーエコノミー的要素が含まれているのか、メンバーズ社が使用するサーキュラーデザインを用いて分析・分類してみましょう。使用するツールは「Circularity Deck」です。

Circularity Deckとは、5つの戦略×5つの階層で構成される51枚の戦術カードです。このツールを使用して、現状(AsIs)と将来の可能性(ToBe)について考察してみます。

サーキュラーデザイン 現状(AsIs)分析

GC社の事例は、循環型経済の原則に基づいた取り組みを行っています。Circularity Deckの中から、NP1、NP2、NB1、NB2、CP2、CP3、IB1の戦術カードが少なくとも実践されているといえます。

NP1(Narrow Product - 少負荷なインプットを使うデザインにする):
GC社の製品は、環境への負荷を最小限に抑えるために、少ないエネルギーや資源を使用しています。

NP2(Narrow Product - 軽量な製品のデザインにする):
GC社の製品は、軽量なデザインが採用されています。これにより、運送や配送時のエネルギー消費や排出物が削減されます。

NB1(Narrow Business Model - 消費抑制でできることやインセンティブを提供する):
GC社は、消費抑制を促す取り組みを行っています。また、消費者に対してインセンティブを提供することで、継続的な購買行動を促進しています。

NB2(Narrow Business Model - 身軽な流通網を実現する):
GC社は、身軽な流通網を構築しています。効率的な物流システムや返品・再販システムの導入により、製品の効率的な流通を実現しています。

CP2(Close Product - できる限り単一素材でデザインする):
GC社は、製品のデザインにおいて単一の素材を使用することに注力しています。

CP3(Close Product - 一次リサイクル素材でデザインする):
同社は、製品のデザインに一次リサイクル素材を使用しています。これにより、廃棄物の削減や資源の有効活用が促進されます。

IB1(Inform Business Model - 製品利用時データを活用し循環デザインに役立てる):
GC社は、製品の利用時データを収集し、循環デザインに役立てています。これにより、製品の改良やリサイクルプロセスの最適化が可能となります。
サーキュラーデザイン 可能性(ToBe)分析

今後、GC社がさらなる企業発展につながるために、どのような戦術をとればいいのでしょうか。以下に、将来(ToBe)志向の戦術要素をCircularity Deckで類推してみます。

IE1(Inform Ecosystem - オンラインプラットフォームを使い循環型製品、部品、素材の市場化を図る):
GC社はオンラインプラットフォームを活用し、循環型製品や部品、素材の市場を形成することでビジネスチャンスを広げることができます。

IE2(Inform Ecosystem - エコシステムによい素材データベースを構築する):
GC社はエコシステムによい素材データベースを構築することで、持続可能な素材の利用を促進し、ビジネスの発展につなげることができます。

IB2(Inform Business Model - 製品寿命に直結するデータを追跡する):
GC社は製品の寿命に関連するデータを追跡し、製品の改善やリサイクルプロセスの最適化に活用することで、より持続可能なビジネスモデルを実現します。

RP3(Regenerate Product - 無害な素材を使ったデザインにする):
GC社は無害な素材を使用した製品のデザインに取り組むことで、環境への影響を最小限に抑えることができます。

公開されている記事だけで判断すると、同社は販売経路として自動販売機だけを使用しているようです。販売モデルの進化として、①EC化、②この自動販売機のIoT化 が見込まれます。購入時のアンケート機能や会員カードとの連携によるCRMマーケティングなど、消費者の囲い込みをさらに進める余地がありますね。

現状は単品販売が主でありながら、形状や用途の異なる多様な商品開発が可能なモデルです。RP3の要素を取り入れることで、無害な素材を使用した製品の開発が可能となり、環境への影響を最小限に抑えることができます。これにより、環境に配慮した製品を提供することで市場の需要を喚起することができるでしょう。

また、IE1とIE2の要素を取り入れることで、オンラインプラットフォームを活用して循環型製品や部品、素材の市場を形成し、エコシステムに良い素材データベースを構築することができます。これにより、循環型経済の原則に基づくビジネスモデルの拡大や、持続可能な資源の供給体制の構築が可能となります。

これらの要素を組み合わせることで、GC社の事業はさらに進化し、より持続可能なビジネスチャンスを追求することができるでしょう。

まとめ

今回ご紹介したジェネレーション・コンシャス社(GC社)のペーパーシート洗剤、いかがでしたでしょうか?

商品単価が安く、すぐに流行が変わるため、固定顧客の育成が難しいとされる日用品において、CRMマーケティングは難しいと言われるなか、GC社の視点は参考になるかもしれません。液体をシート化し、容器を使用せずに中身に焦点を当てるという斬新な発想。その斬新性と将来性には期待が持てます。

GC社は米国のベンチャー企業であり、提携先としても興味深いかもしれません。日用品大手のK社や自動販売機大手のF社、粉末飲料のO社など、ご興味があればぜひ連携を検討してみてください。

サーキュラーデザインに関するお問い合わせはこちらまでお願いします。

ライター:数藤雅紀
株式会社メンバーズ 脱炭素DXカンパニー
循環経済&サスティナビリティ推進 ラボ所長
ケンブリッジ大学経営大学院循環経済プログラム修了
Global Compact Network Japan サーキュラーエコノミー分科会共同幹事
もと山一證券。金融・デジタル・DX・循環経済を得意とする。
Note:https://note.com/suto410
Facebook:https://www.facebook.com/Sutoh/

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