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【事例紹介】日本のエネルギー自給率の救世主になりうる?海の発電機「Tidelkite」について

地球への負荷が小さい風力や太陽光、水素発電といった再生可能エネルギーへの関心が高まるなか、海の潮流や海流を利用して電力を確保する「Tidelkite(ティダルカイト)」が注目を集めています。

今回はこの「Tidelkite」を分析し、循環経済(サーキュラーエコノミー)に向けた新しいアイデアやアクションを考察してみましょう。分析には「※Circularity Deck(サーキュラリティデッキ)」というツールを使用します。

※サーキュラリティデッキについての解説記事はこちら

「潮流発電」とは?

潮流とは、月の引力によって発生する海の流れのことを指します。12〜24時間と周期的に動くことから、季節風に左右されやすい海流に比べて動きが予測しやすく、干潮・満潮の時刻も想定しやすいという利点があります。

潮流発電はこの利点を活用した発電方法で、太陽光や風力とは異なり、天候に左右されないことから発電計画が立てやすく、持続的な供給が期待されています。また、発電する際に他の燃料を必要としない点や、水中に発電設備を設置することから、環境と景観の双方に対する障害がクリーンエネルギーの中でも少ないと言われています。

環境省|再生可能エネルギー源と気候変動緩和に関する特別報告書(https://www.env.go.jp/earth/ipcc/special_reports/srren/pdf/SRREN_Ch06_ja.pdf)

「Tidelkite」がもたらす効果・影響

「Tidelkite」はオランダのSeaQurrentというスタートアップ企業により開発された潮流発電機の1つです。数ある潮流発電の中でもなぜこの「Tidelkite」に注目したのか、この発電機のメリットを3点ご紹介します。

水中凧と呼ばれる「Tidelkite」(https://www.seaqurrent.com/)

①広範囲の潮流エネルギーを捕捉できる
「TidalKite」は空を飛ぶ凧を参考に制作された発電機です。凧が潮流の力を受けると、つながっているワイヤーから海底に設置されたシリンダーが引かれ、運動エネルギーが電気に変換される仕組みになっています。この凧形の形状により、波を受けられる表面積が大きく、浅瀬や波の流れが遅いエリアでも効率的にエネルギーを生み出すことができるため、さまざまな条件下で利用可能です。

また、いくつかの凧を連携し、複数台展開(ファーム化)を行うことで、発電効率をさらに高め、需要量に応じた電力を提供することができます。

②徹底した管理体制でデータを集積
海洋生物の生態を保護しながら海底を破壊しないようにするために、モニター制御を通して24時間体制で海への影響の調査を行っています。

③海への負荷を最低限抑えた構造
安全で環境に優しい潮流発電を目指す「TidalKite」は、耐久性に優れた100%リサイクル素材で構成されています。現在、「TidalKite」はオランダ北部のワッデン海アメランド島沖で試験運用を行っており、今後は世界各地での展開を検討されている注目のプロダクトです。

サーキュラリティデッキで分析・分類

では「Tidelkite」には、どのようなサーキュラーエコノミー的要素が含まれているのか、「Circularity Deck(サーキュラリティデッキ)」を用いて分析・分類してみましょう。サーキュラリティデッキのカードは、5つの資源戦略×3つの階層で構成されます。

サーキュラリティデッキの構成(参照:https://www.members.co.jp/services/csv/circularity-deck.html)

これらの頭文字を掛け合わせた51枚の戦術カードを用いて、現状(AsIs)ー 将来性(ToBe)軸、直接的(Direct)ー 間接的(Indirect)軸で分析・分類を行います。

現状(AsIs)ー 将来性(ToBe)軸では、「Tidelkite」の現状とさらなる企業発展につなげるために将来性の観点で分析します。直接的(Direct)ー 間接的(Indirect)軸では、その企業に対する利益が直接的か間接的かという観点で分析します。

今回は、現状(AsIs)- 将来性(ToBe)軸に焦点を当て、それぞれの事例分析の内容をみていきましょう。

「Tidelkite」の事例を、上記のサーキュラリティデッキを用いて分析した結果が以下の画像です。

デッキを使い「Tidelkite」を分析

サーキュラリティデッキ 現状(AsIs)分析

以下が、現状(AsIs)分析の結果の一例です。

IB3:製品の状態、場所、可用性を追跡する
凧1つの動きから「TidalKite」のファームの運用まで、リアルタイムであらゆる情報更新が、提供企業側で継続的に制御、監視、評価できます。これにより、企業間のやり取りが減ることで無駄なCO2を削減したり、製品の持続性を高めたりすることができます。

RP3:無害な素材を使ったデザインにする
耐久性に優れ、海洋環境での展開を考慮したデザイン設計、100%リサイクル素材で構成されています。

NB1:環境配慮につながる選択肢を提供する
再生可能エネルギーの中でも燃料を必要とせず、景観を損なわせないことからクリーンエネルギーと呼ばれる潮流発電。あえて選択して採用することで、持続可能な社会に貢献することができます。

サーキュラリティデッキ 将来性(ToBe)分析

今後、「Tidelkite」がさらなる発展を遂げるためには、どのような戦略を取り入れればよいでしょうか。以下が、将来性(ToBe)分析の結果の一例です。

RB3:製品使用方法をネイチャーポジティブの観点で見直す
電力不足が原因で進められなかった事業と組み合わせることで、さらなる利益向上を目指します。

RE3:汚染されたエコシステムを見直す
オーストラリアで開発された「Seabin」と呼ばれる海の浮遊ゴミの回収を行う機械と組み合わせることで、電力を確保しながら海水汚染にアプローチすることができるでしょう。

NB3:調達の現地化を進める
養殖場や観光地など、電力調達の現地化をすることができることから、第一次産業と第三次産業の活性化につながります。

分析の考察

以上の将来性(ToBe)分析のなかでも、「RB3:製品使用方法をネイチャーポジティブの観点で見直す」をもとに、日本での導入アイデアとして「①メタンハイドレートの採掘」と「離島・漁業・被災地での活用」に着目して考察してみます。

①メタンハイドレートの採掘
現在、日本のエネルギー自給率が7%(2015年度の推計値)と非常に低い状況にあるなか、日本の周辺海域に眠っているとされるメタンハイドレートが注目を集めています。しかし、メタンハイドレートは陸地から遠くかつ深海深くに存在するため、メタンハイドレートを持続的かつ安全に確保するために多くの電力が必要であり、採掘に進めないのが現状です。そこで、採掘船に「Tidelkite」を組み合わせることで電力を永続的に自給自足することを叶え、採掘を後押しすることが期待できます。

②離島・漁業・被災地での活用
「Tidelkite」が日本により普及していけば、エネルギー自給率を上げることができるため、環境に配慮しながら電力を確保することもできるでしょう。

潮流発電は先述したようなメリットが多いものの、漁業権や航路等の影響でエリアが絞られてしまい、普及が妨げられているのが現状です。そこで、あえて漁業と組み合わせることで、さらなる経済効果を狙うアイデアも考えられます。穏やかな波での使用を推奨している「Tidelkite」の設置条件は、牡蠣といったの海水面漁業の養殖を行ううえでの条件と合致する部分が多いのです。ブリの餌やりなどでAIを活用した養殖も増えており、海上で使用されているシステムの電力普及としても「Tidelkite」は活躍ができるでしょう。

今年震災・豪雨と大災害にあった能登半島では、災害による「能登牡蠣」の被害額は2億円にものぼり、廃業する業者も出ているようです。「Tidelkite」を使うことで、養殖以外からの利益を望めるだけではなく、地産地消の電力を簡単に生み出せることで災害復興にも貢献できる可能性があります。

まとめ

今回は潮流発電機の1つ、SeaQurrentの「Tidelkite」について紹介・考察しました。

島国でエネルギー自給率の低い日本にとって、潮流発電を今後取り入れていくことは、再生可能エネルギーの普及と持続可能な社会の実現に一歩近づくための一歩となるのではないでしょうか?

水産業や漁業でITを活用してさらなる事業開発を検討されている皆さま、サーキュラーエコノミーにご興味を持っていただいた皆さま、ぜひお気軽にこちらまでお問い合わせください。

ライター情報:植田 陽香
株式会社メンバーズ 脱炭素DX研究所所属
大学ではプロダクトデザインを専攻としながら、建築・UI・グラフィックなど幅広いデザイン知識と多角的な思考方法を学ぶ。またゼミ活動では「未来予測」をテーマに、エンタメ業界の今後について研究。
「自身の携わったモノコトで人と社会を笑顔に導きたい」という夢を掲げてメンバーズに入社。
現在、サムネイルやホワイトペーパーのデザイン、画像編集の業務と並行して、note管理を担当している。
関心のあるテーマ「生物多様性」「人種差別」「ジェンダー問題」

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