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【事例紹介】人工芝廃棄のゴールキーパー:「Re-Match」がつくる緑の循環

グラウンド、中庭、室内など、人工芝の使用が広がる一方で、耐用年数を迎えた後の適切な処理方法が求められています。

廃棄物処理の選択肢として、これまでは焼却や埋め立てが基本となっていたなか、環境に優しいリサイクル手法が登場しました。開発したのは、「True Recycling」を掲げるデンマークの企業「Re-Match(リ・マッチ)」です。「Re-Match」は人工芝をほぼ100%リサイクルできる独自の手法を用いて、サーキュラーエコノミーの実現に寄与しています。

今回はこの「Re-Match」を分析し、循環経済(サーキュラーエコノミー)に向けた新しいアイデアやアクションを考察してみましょう。分析には「※Circularity Deck(サーキュラリティデッキ)」というツールを使用します。

※サーキュラリティデッキについての解説記事はこちら

「Re-Match」とは?

人工芝の耐用年数は約10年。その後、適切に処理しなければ環境に悪影響を及ぼす廃棄物となります。たとえば、プロサッカーで使用された人工芝ピッチを焼却した場合、約400トンのCO2が排出されます。この問題を解決するのが「Re-Match」です。

「Re-Match」は廃棄された人工芝を元の原材料に分離し、リサイクルする企業です。機械を用いて、砂やゴム、バッキング材、プラスチック繊維を高純度で再利用可能な形に分離します。

デンマークの企業ですが、オランダやフランス、アメリカに工場をもち、リサイクル規模を拡大しています。もしかすると近い将来、日本にも導入されるかもしれませんね。

「Re-Match」と人工芝(参照:https://re-match.com/press/ )

「Re-Match」がもたらす効果・影響

「Re-Match」は使用済みの人工芝を収集し、機械的に分離することで、砂、ゴム、バッキング材、プラスチック繊維といった原材料を生成し、それらの素材を他企業に販売しています。このリサイクル過程では水を使用せず、焼却や埋め立てに伴うCO2排出も大幅に削減しているため、環境への負荷は最小限に抑えられています。

また、リサイクルされたプラスチック繊維から、新品の芝用糸と同等の品質・強度をもつ新しい糸を製造する科学技術を開発したことで、廃棄された人工芝から新しい人工芝を製造することが可能になりました。

サーキュラリティデッキで分析・分類

それでは、「Re-Match」にはどのようなサーキュラーエコノミー的要素が含まれているのか、「Circularity Deck(サーキュラリティデッキ)」を用いて分析・分類してみましょう。サーキュラリティデッキのカードは、5つの資源戦略×3つの階層で構成されます。

サーキュラリティデッキの構成(参照:https://www.members.co.jp/services/csv/circularity-deck.html)

これらの頭文字を掛け合わせた51枚の戦術カードを用いて、現状(AsIs)ー 将来性(ToBe)軸、直接的(Direct)ー 間接的(Indirect)軸で分析・分類を行います。

現状(AsIs)ー 将来性(ToBe)軸では、「Re-Match」の現状とさらなる企業発展につなげるために将来性の観点で分析します。直接的(Direct)ー 間接的(Indirect)軸では、その企業に対する利益が直接的か間接的かという観点で分析します。

今回は、現状(AsIs)- 将来性(ToBe)軸に焦点を当て、それぞれの事例分析の内容をみていきましょう。「Re-Match」の事例を、上記のサーキュラリティデッキを用いて分析した結果が以下の画像です。

デッキを使い「Re-Match」を分析

サーキュラリティデッキ 現状(AsIs)分析

以下が、現状(AsIs)分析の結果の一例です。

CP1:素材リサイクルではなく部品リサイクルを用いる
使用済み人工芝を素材ごとに分離・リサイクルし、ほぼ100%の素材回収を実現しています。また、リサイクルされたプラスチック繊維から新品同等の芝用糸を製造する技術を開発したことで、廃棄人工芝から新たな人工芝を作ることが可能になりました。

CB1:廃棄品から部品や素材を再利用・販売する
廃棄された人工芝を回収し、再利用可能な原材料として販売しています。

RE4:持続可能なエコシステムの構築と維持を実現する
従来では焼却と埋め立て処分が基本だった人工芝をリサイクルすることで、環境への負荷を減少しており、持続可能な方法で資源を利用しています。

サーキュラリティデッキ 将来性(ToBe)分析

今後「Re-Match」がさらなる発展を遂げるためには、どのような戦略を取り入れればよいでしょうか。デッキで照らし合わせてみると、以下のような将来性(ToBe)分析の結果が出ましたので、一部ご紹介します。

SP4:感情的耐久性を備えたデザインにする
家庭用人工芝を販売するホームセンターと共創し、プロサッカースタジアムの芝をリサイクルした人工芝として売り出すことで、消費者の購買意欲を高め・愛着を持ってもらえることが期待できます。

CE2:複数企業による共創を実現する
人工芝グラウンドを管理している企業や自治体、ホームセンターなど、人工芝に関わる他の企業と連携することで、新しい市場機会を創出できます。特に、業界全体でのサステナビリティ向上に寄与するパートナーシップを形成することで、相乗効果を得られるでしょう。

IE1:オンラインプラットフォームを通じて販売する
オンラインプラットフォームを用いた人工芝回収スキームを構築することで、グラウンド以外の用途で使用している消費者や施設などの人工芝を回収することができます。また、工場進出を果たしている国以外の人工芝も回収することができるかもしれません。

ビジネスの将来性に関する考察

以上の将来性(ToBe)分析から、「Re-Match」のビジネスの将来性について考察してみます。

①新たな市場展開と付加価値の創出

現在は、人工芝グラウンドを管理・運営している法人や企業に向けてサービスを提供しています。しかし、将来的には家庭用人工芝を製造している企業や、販売しているホームセンターなどとの連携を通じて、一般消費者やレストラン、ホテルなどの公共空間にリサイクルした人工芝を提供するビジネスの展開が考えられます。その際に、リサイクル前の人工芝がどこで使用されていたかという情報を付け加えることで、リサイクル人工芝に付加価値をもたせることができるかもしれません。

② オンラインプラットフォームによるサービス提供の拡大

耐用年数を超えた人工芝をどのように廃棄すれば良いかわからないという人もいるのではないでしょうか。そういった方向けに「Re-Match」へサービスを依頼できるオンラインプラットフォームを開発し、提供することで市場規模の拡大だけでなく顧客からの認知度も高まります。

③広域でのパートナーシップ形成

他の企業や自治体との協業により、リサイクルプロセスの効率化や新たな市場開拓が進むとともに、地域社会や環境への貢献も強化されます。また、人工芝リサイクルの依頼を受けられるオンラインプラットフォームを用いることで国を超えたビジネス展開が可能となり、持続可能な経済活動を支える重要な要素となります。

まとめ

今回ご紹介した「Re-Match」、いかがでしたでしょうか?

「Re-Match」は、人工芝のリサイクルを通じて、持続可能な循環型経済の実現に向けた新たな道筋を示しています。また、リサイクル原材の市場拡大やブランドイメージの強化、新技術の導入による効率化など、多くの可能性を秘めています。使用済み人工芝の廃棄方法にお悩みになられている皆さま、ぜひ一度ご検討ください。

また、サーキュラーエコノミーにご興味を持っていただいた皆さま、ぜひお気軽にこちらまでお問い合わせください。

ライター情報:多田 凜平
株式会社メンバーズ  脱炭素DX研究所所属
大学では初等教育について学修し、国語科と音読について研究。執筆した小説をSNSでプロモーションした経験から、デジタルマーケティングを用いた社会課題解決に興味をもち、メンバーズに入社。
脱炭素DX推進に向けた記事執筆を担当。環境省認定制度の脱炭素アドバイザーベーシックにあたる「炭素会計アドバイザー3級」を保有。
関心のあるテーマ「食品」「ファッション」「スポーツ」

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