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【事例紹介】パンクしないエアレスタイヤ「MICHELIN Uptis」

自動車や自転車に乗る多くの人が経験する厄介なトラブルである、タイヤのパンク。JAF(日本自動車連盟)のアンケートによると日本人の6割がパンクを経験しており、世界では年に2億本ものタイヤがパンク・空気圧不良による偏摩耗によって廃棄されています。これによる廃棄物の発生や大量生産が環境に与える影響は無視できません。

今回ご紹介する事例は、そんな問題を解決できる“空気が不要のエアレスタイヤ”、「MICHELIN Uptis(ミシュラン アプティス)」です。

また、「※Circularity Deck(サーキュラリティデッキ)」というツールを利用して、この「MICHELIN Uptis」を題材に循環経済(サーキュラーエコノミー)に向けた新しいアイデアやアクションを考察してみます。

※サーキュラリティデッキについての解説記事はこちら

「MICHELIN Uptis」とは?

年間2億本のタイヤというのは、一体どの程度の量なのでしょうか?

これは全世界のタイヤの20%を占め、質量に換算すると、なんとエッフェル塔の200倍もの量にもなるそうです。まだ使用できるタイヤがパンクによって使えなくなってしまうことは、廃棄量・生産量の増加を招くため、環境に優しいとは言えません。しかしながら、タイヤは200種類以上もの複合素材で作られており、マテリアルリサイクルも容易ではないとされています。

そんな課題を解決するために、フランスのタイヤメーカーMICHELINは「MICHELIN Uptis」というエアレスタイヤを開発しました。

MICHELIN Uptisのエアレスタイヤ (参照:https://www.michelin.co.jp/michelin-uptis-prototype)

画像のように、空気の代わりにバネのような構造を用いて衝撃を吸収する仕組みをしているため、大きな釘が刺さって穴が空いたとしてもパンクすることがありません。

これによりタイヤの寿命を最大限まで伸ばすことができ、生産量並びに廃棄量の大幅な削減につなげることが可能です。

また2023年にシンガポールのDHL Express社と提携し、約50台の車両に装着され、試験的にラストマイル配送が実施されました。このテストによる結果は公表されていませんが、エアレスタイヤが初めて公道を走行した事例として、一般市場への導入に一歩前進したといえるでしょう。

MICHIELIN Uptisを装着したDHL車両 (参考:https://news.michelin.co.jp/articles/20230126-michelin-dhl-uptis-release)

サーキュラリティデッキで分析・分類

「MICHELIN Uptis」には、どのようなサーキュラーエコノミー的要素が含まれているのか、「Circularity Deck(サーキュラリティデッキ)」を用いて分析・分類してみました。サーキュラリティデッキのカードは、5つの資源戦略×3つの階層で構成されます。

サーキュラリティデッキの構成(参照:https://www.members.co.jp/services/csv/circularity-deck.html)

これらの頭文字を掛け合わせた51枚の戦術カードを用いて、現状(AsIs)ー 将来性(ToBe)軸、直接的(Direct)ー 間接的(Indirect)軸で分析・分類を行います。

現状(AsIs)ー 将来性(ToBe)軸では、「MICHELIN Uptis」の現状と、さらなる企業発展につなげるために将来性の観点で分析します。

直接的(Direct)ー 間接的(Indirect)軸では、その企業に対する利益が直接的か間接的かという観点で分析します。

今回は、現状(AsIs)- 将来性(ToBe)軸に焦点を当て、分析していました。

「MICHELIN Uptis」の事例を、上記のサーキュラリティデッキを用いて分析した結果が以下の画像です。

デッキを使い「MICHELIN Uptis」を分析

サーキュラリティデッキ 現状(AsIs)分析

以下が、現状(AsIs)分析の結果の一例です。

NB1:環境配慮につながる選択肢を提供する
エアレスタイヤという、環境配慮につながる選択肢を提供します。

SB4:不要な購入を控えるよう促す
買い替えの頻度が減ることから、スペアタイヤの購入を控えるよう促せます。

NE1:使用効率を最大化する
パンクによる廃棄を防ぐことができるため、使用効率を最大化できます。

サーキュラリティデッキ 将来性(ToBe)分析

今後、「MICHELIN Uptis」がさらなる発展を遂げるためには、どのような戦略を取り入れればよいでしょうか。以下が、将来性(ToBe)を分析してみた結果です。

SP6:メンテと修理を考慮したデザインにする
トレッド面やバネ構造の部分を部品ごとに交換・補修が可能なデザインにする

IP1:循環型特性を持つ新素材を開発する
「MICHELIN Uptis」に用いる素材を再利用可能なものにする

IE1:オンラインプラットフォームを通じて販売する
オンラインプラットフォームでの販売、簡単にアクセスできることで普及を加速させる。

IB1:製品利用時データを追跡する
リアルタイムにタイヤの情報を取得できるコネクテッド技術を用いて、エアレスタイヤの走行の最適化・予知保全を可能にする。

ビジネスの将来性に関する考察

以上の将来性(ToBe)分析から、ビジネスの将来性について考察してみます。

①持続可能なデザインへ

現在「MICHELIN Uptis」はホイールとタイヤが一体となっているため、タイヤのトレッド面が摩耗したり、バネ構造の部分が破損したりすれば、まだ利用可能な部分も含めて丸々廃棄しなければなりません。部品ごとに交換・補修が可能なデザインになれば、より排気量を削減でき、リサイクルの手間を大幅に減らすことが可能になります。

たとえば、MICHELINはVISIONコンセプトにて、3Dプリント技術による摩耗したトレッド面を再充填する技術も目標として掲げています。これが実用化されれば「MICHELIN Uptis」のトレッド面を必要な分だけ補填することができ、コストや資源を抑えつつ耐久寿命を伸ばすことが可能です。

さらに、部品ごとに交換するだけではなく、ホイールを自由にカスタマイズできるようになれば、車のカスタムを好む層への需要を高めることができると考えられます。

②コネクテッド技術との併用

一般的にエアレスタイヤは通常のタイヤと比べて、乗り心地に課題があると言われています。

そこで、タイヤにセンサーを取り付け、リアルタイムでタイヤから情報を取得するコネクテッド技術を用いれば、乗り心地を向上させられる可能性があるのではないでしょうか。コネクテッド技術は、路面の状況を常に把握することができ、それに合わせて速度やタイヤと車体を繋ぐ役目を持つサスペンションを制御することで、振動や走行抵抗を削減できると考えられます。

またコネクテッド技術があれば、同時にリアルタイムでタイヤの状態を確認し、タイヤの破損摩耗状況を追跡し、交換時期をお知らせするなども可能です。そして、取得した走行時のデータを製品開発に用いることで、より「MICHELIN Uptis」の性能・製品寿命を向上させることができます。

まとめ

今回ご紹介した「MICHELIN Uptis」、いかがでしたでしょうか?

MICHELINは2024年には市場へ投入するとしており、近い将来日本でも使われるようになるかもしれません。タイヤの廃棄量・生産量の増加を防ぐ未来のタイヤとして期待が持てますね。私も一度、このタイヤで街中を走ってみたいです。

サーキュラーエコノミーにご興味を持っていただいた皆さま、ぜひお気軽にこちらまでお問い合わせください。

ライター情報:東 聡
株式会社メンバーズ CSV本部 脱炭素DX研究所所属。5年制高専の機械科に所属し、主に機械工学やプログラミングを学ぶ。2035年以降内燃機関の新車販売禁止がEUで可決される(現在は撤回されたものの合成燃料のみ容認)などの自動車の社会課題に興味を持ったことから、社会課題×デジタルマーケティングを取り扱うメンバーズに入社。DDXでは脱炭素アクションの社内業務を担当している。
興味のあるテーマ「自動車」

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