
【事例紹介】デザインで廃棄物をアップサイクル!「Gomi Speaker」
イギリスのデザインスタジオが開発した「Gomi Speaker(ゴミ スピーカー)」は、まさにその名のとおり、「ゴミ」として廃棄される予定だったプラスチックを活用して作られた環境配慮型のポータブルスピーカーです。
この製品は、外装がファッショナブルなだけでなく、製品のライフサイクル全体を考慮した設計がなされています。
今回はこの「Gomi Speaker」を分析し、循環経済(サーキュラーエコノミー)に向けた新しいアイデアやアクションを考察します。分析には「Circularity Deck(サーキュラリティデッキ)」というツールを使用します。
※サーキュラリティデッキについての解説記事はこちら。
「Gomi Speaker」とは?
「Gomi Speaker」は、デザインスタジオGomiが開発したポータブルBluetoothスピーカーです。
表面の部品には、廃棄プラスチックのなかでも特にリサイクルの難しいと言われる低密度ポリエチレン(LDPE)製のビニール袋や食品包装材を再利用。
そして内部の部品でも廃棄電動自転車から取り出した、国際的な安全認証を受けているリチウムイオンバッテリーを活用しています。
このように、環境に配慮された製品でありながらも、音質に優れており、フルレンジネオジムドライバーによる臨場感あふれるサウンドも魅力の1つです。

しかし、魅力的なのはサウンドだけではありません。
この製品は1つひとつ手作業で素材を混ぜて組み立てており、5パターンの配色をマーブリングで着色しています。そのため、同一製品でもデザイン模様が被ることがない、オンリーワンな製品です。
「Gomi Speaker」がもたらす効果・影響
それでは、「Gomi Speaker」が与える効果と影響を考えていきましょう。
①持続可能な製造で大量消費・廃棄問題へ貢献
プラスチックに含まれる低密度ポリエチレン(LDPE)は、処理時に焼却や埋め立てが行われ、大気汚染や土壌汚染の原因となっています。
そこで「Gomi Speaker」は、アップサイクルの要素を取り入れ、廃棄プラスチックを新しいデザインの製品として再利用。製品1台につきビニール袋約100枚分の廃棄プラスチックを削減することで、廃棄物を創り出さない循環を実現しました。
② 消費者に新たな購買基準を提示
優れた音質と美しいデザインを兼ね備えた唯一無二の製品でありながら、環境への配慮も万全です。ユーザーに対して使い捨て文化に抗い、アップサイクル製品を手に取る選択肢を与えているという点から、消費者の購買行動に新たな基準をもたらしていると言えるでしょう。
サーキュラリティデッキで分析・分類
「Gomi Speaker」には、どのようなサーキュラーエコノミー的要素が含まれているのか、「Circularity Deck(サーキュラリティデッキ)」を用いて分析・分類してみましょう。
サーキュラリティデッキのカードは、5つの資源戦略×3つの階層で構成されます。

これらの頭文字を掛け合わせた51枚の戦術カードを用いて、現状(AsIs)ー 将来性(ToBe)軸、直接的(Direct)ー 間接的(Indirect)軸で分析・分類を行います。
現状(AsIs)ー 将来性(ToBe)軸では、「Gomi Speaker」の現状と更なる企業発展につなげるために将来性の観点で分析します。
直接的(Direct)ー 間接的(Indirect)軸では、その企業に対する利益が直接的か間接的かという観点で分析します。
今回は、現状(AsIs)- 将来性(ToBe)軸に焦点を当て、それぞれの事例分析の内容をみていきましょう。
「Gomi Speaker」の事例を、上記のサーキュラリティデッキを用いて分析した結果が以下の画像です。

サーキュラリティデッキ 現状(AsIs)分析
以下が、現状(AsIs)分析の結果の一例です。
CB1:廃棄品から部品や素材を再利用・販売する
主にLDPE(低密度ポリエチレン)の廃棄プラスチックを利用しており、新たにプラスチックを生産する必要がないため、埋立地やそこで焼却処分される廃棄物を減少させることが可能に。
SP6 :メンテと修理を考慮したデザインにする複数の独立した部品(モジュール)で構成するモジュラー設計を採用。各部品が簡単に取り外し可能となり、交換や修理が容易に。これにより製品寿命を延ばし、長期利用を促進している。
CE1 :地域内で廃棄物から製品への循環ループを構築する
地域の店舗や家庭から廃棄プラスチックを回収し、新たな製品として再利用する活動を行うことで、地域内での資源循環を促進する仕組みを確立させている。
サーキュラリティデッキ 将来性(ToBe)分析
今後、「Gomi Speaker」が更なる発展を遂げるためには、どのような戦略を取り入れればよいでしょうか。
以下が、将来性(ToBe)分析の結果の一例です。
SP4:物理的耐久性に備えたデザインにする
スプレーコーティングなどの特別なコーティングを施し、耐衝撃性や耐水性を持たせる。壊れにくいスピーカーはアウトドア使用にも耐え、長期間の利用が可能に。修理や交換の必要性が減るため、環境への負荷が軽減される。また、長期間使用できることで、消費者により愛着を持って利用される製品に。
IE4:循環型インフラを構築しデータの見える化を実施する
プラスチック廃棄物の回収・再利用の過程におけるデータを可視化し、効率的な廃棄物管理システムの構築に加え、消費者や企業に透明性を提供する。 廃棄物の種類や量などを把握し、効果的かつ持続可能な回収とリサイクルを実現。消費者や企業に循環型製品を身近に感じてもらい、循環型経済への参加を促進する。
IP2 :デジタル化・仮想化を検討する
「Gomi Speaker」と連動したアプリを開発。リサイクルから配達・廃棄までの過程を可視化し、廃棄プラスチックが環境に与える影響や「Gomi speaker」が果たす役割を視覚的に把握することが可能に。これにより、ユーザーが環境に対する意識を高め、日常生活の中で身近な問題として捉えるきっかけを提供する。
ビジネスの将来性に関する考察
以上の将来性(ToBe)分析から、Gomi Speakerのビジネス拡張性について考察してみます。
① ご当地プラごみデザインの製品を販売
地域のプラスチックごみを集め、その素材を使用したご当地製品を製造することで、廃棄物問題に対処しつつ、地元のアイデンティティを反映した製品を提供します。
この取り組みでは、リサイクル素材を活用するだけでなく、地域の特性や環境への配慮を生かした新しい素材や生産手法を導入することが可能です。
地域の特性を活かした魅力的なデザインと環境意識を両立させた製品は、ブランドとしての差別化になるだけでなく、消費者が愛着を持ち、長く使いたくなる「感情的耐久性」を高めるでしょう。
② 専用アプリを導入
「Gomi Speaker」専用アプリを開発するとどうでしょうか?
バッテリー状態や修理・交換時期を可視化することで、適切なメンテナンスを実現。さらに、製品のリサイクル状況をリアルタイムで反映させることで、リサイクル貢献の意識を醸成し、消費者の行動変容を促すことができるかもしれません。
同じく消費者への働きとして、エコポイント制度の導入も検討できるでしょう。次回購入時の割引やエコポイント限定のオリジナル製品への交換など、アプリを通した長期的な利用を促進することで、消費者の環境意識を高めます。
また、アプリ内にコミュニティ機能を設け、ユーザー間の情報交換を活性化させることで、ブランドロイヤルティの強化も期待できます。
これらの機能を備えたアプリは、消費者に持続可能な行動を促す強力なツールとなるでしょう。
まとめ
今回ご紹介した「Gomi Speaker」はいかがでしたでしょうか?
廃棄プラスチック問題に対する有力な解決策として期待が持てますね。
サーキュラーエコノミーの製品は、資源の循環だけでなく、デザイン性を追求することも重要です。メンバーズの「9割の人が知らない循環経済」シリーズでは、今後も最新の事例・アワードを紹介していきます。
そして、サーキュラーエコノミーに興味を持たれた皆さま、Gomi Speakerのような環境にやさしい製品に関心がある方は、ぜひお気軽にこちらまでお問い合わせください。
ライター情報:中西佑日里
株式会社メンバーズ CSV本部 脱炭素DX研究所所属
大学時代は情報デザイン学科に所属し、社会課題の解決に向けたデザインの可能性を探求。企画立案やプレゼンテーションを通じて、社会問題に対する理解を深め、「社会課題×デジタルマーケティング」の関連性に惹かれて入社を決意。現在、デザインや動画制作、マーケティング支援などの業務を担当し、自分の経験とスキルを活かしながら、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを行っている。
興味のあるテーマ「人権問題」「少子高齢化問題」「生成AI」
▼この記事を読んだあなたへのおすすめ
▼ セミナー/ホワイトペーパー(無料公開)
≪ メンバーズへのお問い合わせはこちら ≫