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【事例紹介】水不足の解決策!?カエルからヒントを得た「空気水採取装置」

「空気から飲料水が作れたら…?」

長い間空想の中の世界だった、空気中の水分を捕集して液体の水に変換する魔法のような技術「AWH(Atmospheric Water Harvesting systems)」が、近年注目を集めています。

アメリカの企業「WAVR Technologies(ウェイバー・テクノロジー)」が提供している「乾燥地域向け空気水採取装置」は、湿度10%の低湿度環境下でも空気中から利用可能な水を採取することができる革新的な技術です。

今回はこの「乾燥地域向け空気水採取装置」を分析し、循環経済(サーキュラーエコノミー)に向けた新しいアイデアやアクションを考察してみましょう。分析には「※Circularity Deck(サーキュラリティデッキ)」というツールを使用します。

※サーキュラリティデッキについての解説記事はこちら

「乾燥地域向け空気水採取装置」とは?

空気には12.9兆トンの淡水が含まれており、これは地球上のすべての湖の水の約10%もの水量に相当します。まさに、目に見えない非常に大きな川といえるでしょう。「乾燥地域向け空気水採取装置」は、その「見えない川」、空気に豊富に含まれる水分を採取する「AWH技術(Atmospheric Water Harvesting systems)」が応用されています。

従来のAWH技術は「固定吸着剤」に依存した手法を用いていました。この方法は水分の捕捉と放出をゆっくりとした速度で繰り返す必要があり、空気を液体の水に変換するのに時間がかかってしまいます。そのため、湿度 30%未満の低湿度環境下では採取水量が少ないという課題がありました。

そこで、アメリカ・ネバダ大学 機械工学教授の H. ジェレミー・チョー氏は、新素材「スキン」を用い、根本的に異なるアプローチを構想しました。「スキン」は、水を多く内含し、柔軟性を持つ高機能のゲル「ハイドロゲル」の一種です。チョー教授は、アオガエルの皮膚やエアプランツという植物の水分補給方法からヒントを得て、この新素材を開発し、輸送媒体として採用しました。この発想の転換により、水分の捕捉と放出を同時に行うことができるようになり、液体の水への変換スピードが高速化。既存の技術の5倍以上の水分を回収することに成功したのです。

こうして誕生した「乾燥地域向け空気水採取技術」は、チョー教授が設立した会社「WAVR Technologies」によって商業化されました。現在、法人・団体を中心に、医療や農業などのさまざまな業界、災害対応まで広く活用されています。

ハイドロゲル膜「スキン」(https://www.unlv.edu/news/release/watershed-moment-engineers-invent-high-yield-atmospheric-water-capture-device-arid)

「乾燥地域向け空気水採取装置」のココがすごい!

以下に、この装置の優れた点をご紹介します。

①大量の水を高速で採取可能

「乾燥地域向け空気水採取装置」は開発した新素材「スキン」を活用し、従来の空気水採取装置では採取が難しかった乾燥地域においても、空気から十分な量の水を短い時間で回収することに成功しました。

たとえば、アメリカのラスベガス渓谷をはじめとする乾燥地域における採水量は、1平方メートル(畳半畳)のスペースで、1日あたり約4リットルです。さらに、湿度の高い環境であれば、採取量はなんとその3倍、約12リットルにもなります。

この装置は湿度 10% まで効果を発揮するため、乾燥化に伴い水資源の枯渇が懸念されている、アフリカのサヘル地域や中央アジア、南米等の地域において希望の光となるでしょう。

②環境配慮とコスト削減を両立

「乾燥地域向け空気水採取装置」は、太陽光発電を活用して稼働しています。乾燥地域は低湿度環境にあるため、高湿度地域と比較して、装置を使用する際に水回収に時間がかかるだけではなく、使用電力も多く必要です。しかしこの装置は、太陽光発電を用いた自家発電で稼働しているため、乾燥地域の環境を活かして発電できます。  

たとえば、ラスベガス渓谷では、1年のうち約300日もの間、晴れ間が続き、太陽光がふんだんに降り注ぎます。それをエネルギーに変換することで、年間を通じて豊富な電力を享受することができます。さらに、太陽光発電はCO2の排出量が少ないため、環境に配慮しながら大幅なコスト削減が可能となるのです。

このことからも、太陽光発電を活用している「乾燥地域向け空気水採取装置」は、地球にやさしい装置といえるでしょう。

サーキュラリティデッキで分析・分類

「乾燥地域向け空気水採取装置」には、どのようなサーキュラーエコノミーの的要素が含まれているのか、「Circularity Deck(サーキュラリティデッキ)」を用いて分析・分類してみましょう。

サーキュラリティデッキのカードは、5つの資源戦略×3つの階層で構成されます。

サーキュラリティデッキの構成(https://www.members.co.jp/services/csv/circularity-deck.html)

これらの頭文字を掛け合わせた51枚の戦術カードを用いて、現状(AsIs)ー 将来性(ToBe)軸、直接的(Direct)ー 間接的(Indirect)軸で分析・分類を行います。

現状(AsIs)ー 将来性(ToBe)軸では、「乾燥地域向け空気水採取装置」の現状とさらなる企業発展につなげるために将来性の観点で分析します。直接的(Direct)ー 間接的(Indirect)軸では、その企業に対する利益が直接的か間接的かという観点で分析します。

今回は、現状(AsIs)- 将来性(ToBe)軸に焦点を当て、それぞれの事例分析の内容をみていきましょう。

「乾燥地域向け空気水採取装置」の事例を、上記のサーキュラリティデッキを用いて分析した結果が以下の画像です。

デッキを使い「乾燥地域向け空気水採取装置」を分析

サーキュラリティデッキ 現状(AsIs)分析

以下が、現状(AsIs)分析の結果の一例です。

NE1: 使用効率を最大化する
新素材のハイドロゲル膜「スキン」を用いて、空気中の水分の捕捉と放出を同時に行うことで、既存のAWH技術と比較して、5倍以上の量の水を採取することができる。これより、水採取に必要な装置の全体数削減が可能となり、装置製造に必要な素材の量や装置輸送時のCO2排出量の削減に貢献している。

RP1:自己充電可能な製品をデザインする
空気中の水分を液体の水に変換する際に必要なエネルギーを、二酸化炭素の発生を伴わない太陽光発電で賄うことができる。

サーキュラリティデッキ 将来性(ToBe)分析

今後、「乾燥地域向け空気水採取装置」がさらなる発展を遂げるためには、どのような戦略を取り入れればよいでしょうか。デッキで照らし合わせてみると、以下のような分析結果が出ましたので、一部ご紹介します。

NP2:軽量な製品のデザインにする
キッチン用、車用などの家庭用ポータブル装置をはじめとする、軽量版装置を開発することで、使用素材の量や輸送に必要なエネルギーの削減が期待できる。

NB3:調達の現地化を進める
飲料メーカーとコラボし、各地域の空気から生成された水を「ご当地空気水」として売り出せば、地域経済の活性化が促進され、装置の輸送時のCO2排出量削減による環境負荷軽減も見込める。

IB3:製品の状態、場所、可用性を追跡する
装置にセンサーを設置し、稼働状態を把握することで、修理やメンテナンスが必要になる時期を予測できるようにする。また、リアルタイムで取水状況をデータ追跡することで、装置の設置場所の最適化を図る。

「乾燥地域向け空気水採取装置」の初期プロトタイプ (https://www.unlv.edu/news/release/watershed-moment-engineers-invent-high-yield-atmospheric-water-capture-device-arid)

ビジネスの将来性に関する考察

ここまでお伝えしてきたなかで「乾燥地域向け空気水採取装置」は、現在水不足が目に見えて深刻化している乾燥地域の救いの手となることがお分かりいただけたかと思います。では、海に囲まれている日本ではこの装置はあまり効力がないのでしょうか?決してそんなことはありません。

本章では、前章の将来性(ToBe)分析結果を基に、「乾燥地域向け空気水採取装置」の日本における活用方法をご提案します。

①軽量化し、顧客層を個人に拡大する

「乾燥地域向け空気水採取装置」は現在、商業・農業・医療・飲料および食品産業といった法人・団体への提供に留まっています。そこで装置を軽量化するとどうなるでしょうか?

必要な素材量が減り、輸送に必要なエネルギーも少なくて済むだけでなく、持ち運びも容易となるため、山小屋や離島といった水の調達が難しい場所でも、取水が可能になるでしょう。

また、定額で装置を貸し出すサブスクリプションサービスも個人に展開しやすくなります。サービス化によるサーキュラーなメリットは、装置の所有権を製造者に留めておくことができるという点にあります。装置を売り切る従来のビジネスモデルとは対照的に、製品の回収・修理・再利用が容易となり、原材料や製品を長期間維持しやすい装置にアップデートされます。

②地方自治体と連携する

市区町村の施設や学校に常設することで、災害時の水源確保にはもちろん、地域の人々に持続可能なライフスタイルを促すことにもつながるでしょう。

たとえば、SDGsの一例として学校に常設された装置を学校教育で取り上げるのも良いでしょう。身近に設定された装置を通して、未来を担う子どもたちが、日々深刻化する水不足問題を知ることになります。それは、水資源を守るために自身にできることを彼らが自主的に考え、環境に配慮したアクションを起こすきっかけになるかもしれません。

まとめ

今回ご紹介した「WAVR Technologies(ウェイバー・テクノロジー)」の「乾燥地域向け空気水採取装置」、いかがでしたでしょうか?

地球規模の気候変動に伴い、乾燥地域が広がり、水資源の確保が重要な課題となっている昨今。空気から水を生成する「乾燥地域向け空気水採取装置」は、そうした乾燥地域における水不足の解決にはもちろん、現在はまだ水不足とされていない地域においても十分に活用が期待できます。

メンバーズの「9割の人が知らない循環経済」シリーズでは、今後も最新の事例・アワードを紹介していきます。次回の投稿もお楽しみに。

また、循環型製品・サービスの開発にご興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にこちらまでお問い合わせください。

ライター情報:亀本こころ
株式会社メンバーズ CSV本部 脱炭素DX研究所所属
大学時代に、心理学、哲学、文章編集などを学ぶ。ボランティア活動の経験から、SDGsの達成に向けて取り組むことで社会課題解決に貢献したいと思い、メンバーズに入社。現在は主にnote運用をはじめとするGXマーケティングに携わっている。
興味のあるテーマ「UX」「SDGs」「多様性」「人権」

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